第13話 冒険者の親子

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第13話 冒険者の親子

 街から森へ珍しい果物がないか探す為に出掛ける道で、冒険者の親子とすれ違った。 「もう疲れたよ」 子供が疲れたと言って父親に向かって両手を伸ばしている。 冒険者の父親は、子供に背中を向けてしゃがみこんだ。 すると子供が父親の背中に這い上がって背中に手を掛けると、父親が子供をおぶさって立ち上がった。 「なあにしてうの」 リーフは、おんぶを初めて見るらしく興味津々だ。 「子供が疲れたから、お父さんがおんぶしてあげてるんだ」 「おんぷぅ」 『ぶ』の発音で、空気が抜けて温風に聞こえるのは俺だけか? 翼はそんな下らない事を考えながら歩いていた。 森に着いて直ぐに、ユキがソワソワして口を開いた。 「我は肉を狩ってくる」 もう獲物とさえ、言わなくなってるじゃないか。 「ああ、俺は果物探しを続けるから適当に帰ってきてくれ」 「うむ」 二文字の返事を言い終わる前に、疾風のような早さでユキの姿が目よ前から消えていた。 「肉が好きなのか狩りが好きなのか、きっと両方好きなんだな」 「だな」 意味が分かっているのかどうか、リーフが絶妙な相槌をうった。 「ハハハッ、リーフ果物を見付けたいんだけど、一緒に探してくれるか?」 「うんと、はむしいる」 「羽虫じゃないわさ」 羽虫と言われてムカついたのか、口癖が顔を出していた。 「ああ、君は確か┅┅君は┅┅」 「アルルよ」 そうだ。確かそんな名前だった。 森の妖精であるアルルが、不満そうに腕組みをして翼を見ている。 「そうだ、アルルだったな。ハハハッ」 まったく記憶から消えていたよ。 「今日はどうしたんだ?」 「あんたがあたしを全然呼んでくれないから、あたしから来てやったのよ」 偉そうなアルルの態度に、翼はそう言えばこんな子だったなと思い出してきた。 そして羽虫呼ばわりしたリーフは、まったく興味が無さそうだ。 「そうだ、アルル。この森に珍しい果物がなってるところを知らないか」 「果物?」 「うん。リンゴやミカン、葡萄や桃じゃなくて、お店で買えないような果物を探しているんだ」 「ふうん、それ教えてあげたらあたしの願いを聞いてくれるかしら?」 アルルは両手を後ろに結んで、交換条件を出してきた。 「俺で出来る事なら構わないけど、先に願いを教えてくれ」 「この前みたいに美味しい物を作ってちょうだい」 「美味しいもの?ああ、この間はビビンパを一緒に食べたんだよな。じゃあ、一緒に飯食うか」 翼はもっととんでもない事を要求されると思っていたので、そんな事かと肩の荷を下ろした。 「俺達はユキが帰ってきてから食べるけど、アルルの食事を先に作るか?」 「いいわよ。先に果物を取りに行きましょ」 「いいのか」 翼の顔が、まるで夜が明けて日が射したようにパアッと明るくなった。 「ふんだわさ」 アルルは自分が言った何でもない一言で翼の顔が明るくなり、驚いて口癖が出てしまったようだ。 「着いてきなさい」 アルルが先頭を切って道案内をしてくれた。 森の道なき道を進むと木が高く幹が太くなり、大きな木陰が日を遮り辺りを薄暗くしていた。 森の奥に入るにつれて、ユキに一言断ってからくれば良かったと思った。 「ここよ」 アルルが案内してくれたのは、木苺のなる木だった。 木苺の木の横には、大きな洞穴があった。 「木苺がいっぱいなってるな。でもまた木登りしないといけないのか」 以前、木から下りられないと泣いていたリーフを助けに木に登って、自分が下りられなくなった事を思い出していた。 「はあ~」 翼は大きなため息をついた。 「何よ、せっかく案内してやったのに失礼だわさ」 アルルは翼に喜んでもらえると思っていたので、ガッカリした様子に慌てて口癖が出てしまう。 「違うよ。木苺は嬉しいんだ。ただ、木登りがあまり得意じゃな┅┅」 「ガアオッ」 突然、洞穴からレッドグリズリーが現れて、翼達に気が付くと2本脚で立ち上がり威嚇してきた。 洞穴にいたレッドグリズリーが、翼達の話し声で目を覚ましたのかもしれない。 「アルル、リーフと一緒に逃げて」 「やあの」 突然、翼の手から放り出されたリーフは声を上げた。 「オチビちゃん、あんたがいたら翼が逃げれないのよ」 「あい」 リーフは自分が翼の邪魔になってしまうと理解したのか、その場からポーン、ポーンと飛んで離れ始めた。 「よし。ほうら、こっちだぞ」 翼はリーフが離れていく事を確認して、リーフが行った反対方向にレッドグリズリーを誘い込んでいく。 「ガアッ」 レッドグリズリーは片手を大きく上げて、翼の逃げる背中目掛けて大きな手を振り下ろした。 翼はギリギリのところでレッドグリズリーの凶暴な爪から身をかわした。 「誰か~助けてくれ~」 翼は逃げ惑っていたが、レッドグリズリーは巨体の割に脚が早く簡単に追い付かれてしまう。 翼の恐怖と一緒にズンズンと迫りくるレッドグリズリーに振り向き「もうダメか」と思った瞬間、白く巨大な物が視線を遮った。 「何をやっておるのだ」 「ユキ、来てくれたのか」 「うむ」 ユキは翼の声を聞き付けて一足飛びで、助けに駆け付けた。 「旨そうな肉を見付けたではないか」 まるで翼が囮になって、レッドグリズリーを誘い出したような言い種だった。 「退治してくれたら、たらふく食わせてやる」 「うむ」 「ガウ、ガウ」 自分よりも一回り以上大きなユキを見て、明らかに尻込みをして動けないでいるレッドグリズリーに頭から体当たりした。 「ドスンッ」 ガサガサガサ ユキの巨体に体当たりされたレッドグリズリーは、吹き飛ばされて木苺の木に体当たりした。 そして辺り一面に木苺が降ってきて、紅くて小さな花が咲く花畑みたいになった。 その中央に巨大なレッドグリズリーが脚を放り出して座り込んでいる図は、まるでアニメキャラクターのように見えなくもない。 「ユキ、あいつ死んでるのか?」 ガブっ ユキはおもむろにレッドグリズリーの首筋に歯を立てて噛み付き引きちぎった。 「これで安心だ」 ピコン 【名前 ユキ 【HP 7030/7300 【MP 5150/5450 【スキル 神獣 【種族 キマイラの王 【名前 ツバサ 【HP 390/500 【MP 261/275 【スキル テイマー クリーン 【従魔 ベビーリーフスライム キマイラの王 【職業 料理人 【名前 リーフ 【HP 255/320 【MP 179/245 【スキル 回復 【種族 ベビーリーフスライム ユキの真っ白で大きな顔に、血がベットリ付いてしまっていた。 「っ」 翼はステータスが上がったのにも目をくれず、自分に血が付くのも構わずにユキの鬣にしがみついた。 「どうしたのだ?」 「ありがとう」 「うむ」 ユキはスリスリと翼に頭を擦り付けた。 言葉では言い表せない感謝の気持ちをお礼の言葉一つで、ユキはきっと理解してくれたのだろう。 「お互い綺麗にしなきゃな。クリーン」 翼のスキルでユキと翼に付いたレッドグリズリーの血が、あっという間に綺麗に消えた。 「レッドグリズリーをやっつけたのね」 いつの間にかアルルが姿を表した。 「何故ここに羽虫がいるのだ?リーフはどこだ?」 ユキがリーフの姿が見えないと、辺りを見渡した。 「リーフ、もう出てきてもいいよ」 すると木の陰に隠れていたリーフが姿を表した。 「まさか、ずっと見てたわけじゃないよな?逃げろって言っただろ」 「ふっう」 翼に駆け寄ろうとしたリーフが、方向転換してユキにしがみついた。 「はあ」 「そう怒るな。そなたが心配だったのだろう」 「そうだな」 翼は怯えているリーフを見て、大人気なかったと反省した。 「リーフ、ごめんよ。でも、どんな時にもリーフの安全が一番なんだ。分かるよね」 「あい」 翼の気持ちを感じ取ったのか、リーフは腕を2本出して翼に差し出した。 「おいで」 翼はリーフの差し出す手を取って、自分の胸にリーフを抱き締めた。 「それで、どうして羽虫がいるのだ」 ユキは、この状況を納得していないようだった。 「ああ、俺が珍しい果物のある場所をアルルに聞いて連れてきてもらったんだよ」 そうしたら、横の洞穴から眠っていたレッドグリズリーが出てきて襲われたと説明した。 「レッドグリズリーの洞穴に案内するとは、どこまで迷惑な羽虫だ」 「はむし」 うわっ、リーフにまで責められている。 「何よ、頼まれたから連れてきてやったんじゃないのさ」 アルルは悔しそうに言葉を吐き捨てると、森の上空へ昇って光って姿を消してしまった。
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