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第18話 リーフのおねだり
「ユキ、一緒に来てくれ」
妖精達に睨みを聞かせていたユキを呼び寄せて、一緒に食料庫にやってきた。
石造りで出来た立派な貯蔵庫だが、翼達が入るには扉が小さすぎた。
「果物を全部、外に運び出してもらえますか」
翼の冷ややかな声が辺りに響いた。
「全部ですと?」
老妖精アルトは、まさか果物を全部要求する気じゃないだろうなと訝(いぶか)っているようだ。
「これ、果物を一つ残らず運び出すのじゃ」
それでも今の翼達に反論するには部が悪いと、言われるがまま御付きの者に指示を出した。
妖精達が果物を多く食べるのか、翼達が1ヶ月毎日食べても食べきれない沢山の果物が山積みされた。
中には紫や黄緑の丸い果物やドラゴンフルーツのように皮に覆われているが水色と言う見た事もない果物が沢山あった。
「妖精族にはお金や他の食料もありますよね」
「それは勿論┅┅」
先ほど振る舞われた料理からも胡桃やナッツを主食としていると思われた。
それに妖精の棲みかを飾る水晶を見れば、お金に困っている筈もない。
「では報酬として果物は全て貰っていく。倒木は済ませたので好きな花の種を蒔けばいい」
「お待ち下され。花が咲き蜜蜂が蜜を運んでくれるようになるまで、ご滞在頂けませぬか」
老妖精アルトは、翼達を引き留めて種蒔きでもさせる気なのかもしれない。
「リーフを泣かせる奴は俺の敵だ。今後一切関わらないでくれ」
「よく言った。そなたが言わねば我がこんな棲みか等、一暴れで潰してやるところだ」
翼はマジックリュックを肩から下ろすと、瞬く間に目の前の果物を収納してしまった。
老妖精アルトは、力尽きるようにその場にペタンと座り込んでしまった。
「長老様」
御付きの妖精がアルトに駆け寄って、助け起こそうとするが腰が抜けてしまったようだ。、
「行こう」
「待つだわさ」
アルルが騒ぎを聞いてやってきた。
「殺されたくなければ黙れ羽虫」
ユキが威嚇するとアルルは恐怖から羽を畳んで地面に着地した。
アルルはリーフから葉っぱを採っている連中の中にはいなかった。
けれどアルトもアルルも騒ぎを聞き付けると、直ぐに駆け付けたではないか。
つまりリーフが葉っぱを採られて泣いていたのを知りながら、妖精達を止めなかったんだ。
「今後、俺の前に姿を現すな」
「ヒドイだわさ。あたしが何をしたって言うんだわさ」
アルルは地面に足を着けたままで、地団駄を踏んで喚き散らした。
「そうだな。リーフが泣き喚いていたのに、何もしなかったんだよな」
「┅┅」
思い当たる事があると言う気まずい顔で、アルルは言葉を失った。
「多少の縁はあったから、花畑を作るのに種を分けてやる」
翼はマジックリュックから菜種▪レンゲ▪ミカン▪クローバーの種を数十粒ずつ手に取ると、アルルの前に差し出した。
「これは菜種▪レンゲ▪ミカン▪クローバーで、蜜蜂達が好む花を咲かせる種だ」
「ありがとうございます」
お礼を言う位なら世界樹の子から、葉っぱを引き抜くなと言いたかった。
けれど妖精達には自分達の寿命を延ばす事が重要で、翼が出来るのはリーフが傷付けられないように守る事だけだった。
他の世界樹の子の葉っぱを守るのは翼の役目ではないし、人間が他の動植物を食べるのを止めるのと変わらない。
だから関わってしまったからには、上手く花畑が出来ればいいと思う。
それを邪魔したり、妖精の棲みかを荒らすつもりなんてない。
ただリーフを傷付けた妖精達と金輪際関わりたくないと言うのが翼の本音だった。
「さあ、帰ろう」
「うむ」
翼はアルルに目もくれず、ユキとリーフと一緒に妖精の棲みかを後にした。
◇◆◇
気の根元の穴から元の世界に戻って、翼は少しだけリーフにワインを飲ませた。
翼の作るワインには回復ポーションの効能があり、体力を奪われたリーフに必要だと思ったからだ。
「リーフ、ワインだよ。少しだけ飲んでごらん」
横に広がる雫型を保てないリーフが、よろよろと腕を伸ばしてストローのようにワインを飲んだ。
「ないない」
「美味しくないか、そうか」
美味しくないと顔を歪めるリーフだったが翼の作ったワインの効果で、いつもの横に広がる雫型に戻っていた。
「ないない」
「そうか、不味いか」
翼はワインが美味しくないと言うリーフを嬉しそうに抱き締めた。
「ステータスオープン」
【名前 リーフ
【HP 215/320
【MP 179/245
【スキル 回復
【種族 ベビーリーフスライム
翼の能力が上がっている為だろう、ワインを飲んだリーフのHPが200回復した。
「よし、だいぶ回復してきたな。もう少し先まで歩いて食事にしよう」
翼はユキとリーフを見て、歩き出そうとしたが、リーフがモジモジしている。
「リーフどうした?どこか体が辛いのか?」
「おんぷぅ」
「温風?」
ああ、おんぶか?
そう言えば森に続く街道ですれ違った冒険者の親子が、おんぶをしてたっけ。
もしかして子供が父親におんぶしてと、せがんでいたのが羨ましかったのか?
「何だ、おんぶして欲しかったのか。それじゃあリーフは小さいから、腰に手を回してリーフが乗るのと、肩に腕を掛けるのどっちがいいかな?」
翼はリーフに背を向けて、その場にしゃがみ込んだ。
「さあ、リーフ背中に乗っかってみて」
「あい」
リーフはポーンと翼の背中に乗って、2本の腕を出して肩に掴まった。
「リーフ、落ちるなよ」
翼はリーフが落ちた時の備えとして、腰の後ろで両手を組んだ。
最初は背負われてはしゃいでいたが、森の中をしばらく歩いているとリーフは眠ってしまったようだ。
「HPが回復しているのに、甘やかしすぎではないのか?」
ユキはリーフを背負う翼に、苦言を呈しているようだ。
「いいんだ。昔飼ってた犬が、おんぶが好きでさ。成人病になったりもしてね。野生の動物はおんぶしたり、成人病にならないらしいんだけど、人間と暮らすうちに、人間と同じ行動をしたり病気にかかるんだってさ」
「それはいい事なのか?」
「う~ん、どうだろう。でも家族なんだなって思ったんだよね。それにしてもリーフがこんなに小さいのに、めちゃくちゃ重いんだけど。寝てるからかな。ユキ様、リーフを背負って下さい」
「そなたの子だろう。なんなら我の事も背負ってくれていいぞ」
ユキが前脚を振り上げて、翼にのし掛かるフリをした。
「やめて~」
翼はどこか楽しい気持ちで、駆け出していった。
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