第21話 妖精達の企み

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第21話 妖精達の企み

 現在妖精が住んでいるのは、リュシオン王国から北西に向かった木の根元から穴に入った先にあった。 アルルの話だと遥か昔、(元)妖精達の棲みかだった場所が、魔の森の反対側にあると言う。 「場所は分かるのか?」 翼は行くと決心が付いた訳ではないが、アルルにいくつかの確認をした。 「妖精の棲みかに繋がる木の根元の穴がある場所までは、あたしが連れていってあげるわ」 頼みごとをしに来て、上から目線で発言をするアルルにイラつく。。 「お前、話し方を統一してくれ。それじゃなくてもイライラするのに」 翼が他人にこんな言葉を投げ掛けるのは、初めてかもしれない。 「分かったわさ」 アルルも今さら口癖を隠しても、仕方がないと諦めたようだ。 「それで聖地って言うのは、どういう意味なんだ?」 「妖精の棲みかだわさ」 「だ▪か▪ら、聖地じゃなくなったから妖精が住めなくなったんだろ。どうして住めなくなったんだよ」 翼はアルルと会話が成り立たないのにイライラしながら、我慢して会話を続けた。 「最初は妖精だけが住んでいて、そのうち動物や人間も住み始めたんだわさ。そして争いが増えて聖地が妖精と動物と人間の血で汚れたんだわさ」 最初に住み始めたと言う免罪符を振りかざしてきたんだろうが、翼とさえ仲良くなれない妖精達が人間と仲良くなれるとは到底思えない。 「そんな汚れた地に果樹園なんて作れるのか?」 翼はなんとも言えない不快な物が込み上げてきた。 「人間が住んでいる街と一緒だわさ。狩りをして、人間同士でも殺しあって土地を汚しているだわさ」 人間の汚れた世界では妖精は暮らせないってことか。 「それでその汚された土地に俺達を住まわせて、どうする気なんだ?」 「あたし達はそこに入れないから、自分達の住む土地を確認するついでに様子を見てきて欲しいんだわさ」 入れない?汚れた土地だからだからだろうか。 「とにかくその地には所有者がいなくて、俺の果樹園にしていいってことだな」 「そうだわさ」 なかなかスムーズに会話が出来ないアルルも、それだけはハッキリと答えた。 「ユキ。一度行ってみたいと思うんだが、一緒に行ってくれるか」 「うむ。羽虫は信用ならぬが、だからこそ見て確認する必要があるだろう」 「リーフも」 隣に座っているリーフが、置いていかれては大変だと翼にしがみついてきた。 「ああ、2人が一緒なら心強い。よろしく頼む」 翼はリーフの上にそっと手を乗せながら、2人を交互に見てニッコリと笑った。 「アルル、道案内を頼めるか」 「勿論だわさ」 アルルは任せろとばかりに胸を張った。 ◇◆◇  リュシオン王国の城壁の門から出て、まずは魔の森を目指す。 実はユキの背中に乗せてもらえば、魔の森もあっという間に駆け抜けてくれる。 けれど急ぐ旅でもないので、翼は基本的に自分の足で歩くようにしている。 それに従魔とは言えユキは馬でも乗り物でもない。 ではユキは翼にとって、どんな存在なんだろう? 旅仲間か?違う気がする。まだ分からないな。 「付いたわさ」 アルルに案内されるがまま歩きながら翼が取り留めのないことを考えている内に、(元)妖精の棲みかに繋がる木に辿り着いていた。 バシッ、バシン 「何だ、これ」 「むむっ」 翼は、予想もしなかった目の前の光景に尻込みしてしまう。 なんと(元)妖精の棲みかに繋がる木が、自らの太い枝を振り回して地面に叩き付けている。 「こあい」 リーフが怯えて、翼の後ろに隠れた。 そうだ。 リーフがいるのに俺が怯えて固まっていて、どうするんだ。 「ユキ、あの木は何か分かるか?」 「うむ。魔物に取り憑かれた木や岩が、あんな姿になるのを見たことがあるぞ」 「うわあっ」 その時、魔物に取り憑かれている木が、翼達を認識したかのようにしなる太い枝で攻撃してきた。 翼は咄嗟に、後ろにいたリーフを抱えて後ろへ倒れ込む。 「いてぇ、リーフ大丈夫か」 翼は枝の鞭で叩かれたらしく背中に痛みが走ったが、まずは腕の中に抱えたリーフを覗き込んだ。 「こあいの」 ブルブル震えるリーフを見て、このまま撤退することも考えた。 だが、まずはワイン(回復ポーションの効能がある)で傷を治そう。 マジックリュックを背中から下ろして、回復用にワインを入れた小瓶を取り出して喉に流し込んだ。 「ふう」 小瓶に入ったワインを飲み干すと、背中の痛みが消えて疲れも吹き飛んだ。 「アルルはどこだ?」 傷を治した翼は枝の鞭が届かない所まで下がってから、アルルを探して辺りを見渡した。 あいつ、ここまで誘導してきて姿を眩ましたな。 ユキが体当たりしたら、間違いなく木が倒れてしまうな。 それでは(元)妖精の棲みかには、立ち入ることが出来なくなってしまう。 まずは一度、中に入らなきゃいけないからな。 「ユキ、魔物に取り憑かれた木や岩から魔物を取り除くには、どうすればいいんだ?」 「うむ。中級以上のクリーン浄化魔法で引き離すことが出来るぞ」 「風呂代わりのクリーンに、そんな力があるのか?」 翼のクリーンが中級になったことで、浄化の能力が使えるようになっていたようだ。 半信半疑ながら、暴れまくる木に離れた位置から手をかざした。 「クリーン」 翼は目を閉じて、魔物を木から追い出すイメージで詠唱を唱えた。 「ぎゃああああっ」 断末魔のような声が聞こえたかと思うと、木から黒と紫が混じった不気味な影が立ち上った。 「がああっお」 立ち上った影の中心に、ユキが牙を立てて襲い掛かると、煙のように霧散してしまった。 「消えたのか?」 木は暴れていたのが嘘のように、静まり返る。 「あんな不気味な奴に突っ込んでいって、大丈夫か」 翼はリーフを腕に抱き抱えながら、ユキに駆け寄った。 「うむ。あやつは木に取り憑いた時に肉体を捨てているから、木から出てしまえばどうと言うことはない」 「ユキが無事ならいいんだ」 翼はリーフを間に挟むように、ユキの鬣に抱き付いた。 「ユキちゃん、えらいの」 「うむ」 リーフからの褒め言葉に、ユキは照れているようだった。 「やったわさ」 「さすがでございます」 暴れていた木を翼とユキが退治するや否や、妖精達がワラワラと姿を現した。 木の穴から出た時に、槍を持った妖精達に囲まれたのを彷彿とさせた。 「あんた達が昔の妖精の棲みかを放っておいたのは、この木が原因か」 翼が姿を現した老妖精アルトを睨み付けた。 「使途様のお陰で、妖精の棲みかを取り戻すことが出来ましたのじゃ」 老妖精アルトは、何のやましい事もないように礼を言ってきた。 「図々しい羽虫め」 ユキが悪態を付いた。 「はむしめ」 勿論、リーフもそれに続いた。 「こほん。お礼を言われるおぼえはないよ。あんた達は、ここに住まないと聞いているからな」 翼はアルルを睨み付けた。 「それは、住めるような状態じゃなかったからだわさ」 アルルは誰に言い訳を言っているのか、焦点が定まっていない。 「俺達があんた達の為に、土地を取り戻す謂われなんて初めからないんだ。俺達は自分達が暮らす土地を探しにここへ来たんだ」 「勿論、木に取り憑いた魔物を退治して下さったのですから、この土地は使途様方の物ですじゃ」 いかにも悪巧みがある言い回しだと翼は警戒した。 「土地を守るには、殺し合いが一番だ」 ユキが翼の前に立ち、妖精達を牽制した。 「お待ち下され。妖精の棲みかが、どのような状態かも分かりませぬ。まずは一緒に中を確認して、それから話し合われては如何でしょうか?」 老妖精アルトは、とにかく妖精の棲みかに一緒に入って、既成事実でも作るつもりのようだ。 「ちょっと待ってくれ。ここは俺達が戦って勝ち取った土地だ。まずは俺とリーフだけで中を確認してくる」 「リーフも」 はいはい。一緒に行くって言ってるでしょ。 (ユキ、聞こえるか) 契約者と従魔は、念話で周りの者に聞かれずに頭の中で話しが出来る。と知ったのも最近のことだけど。 (うむ) (俺とリーフが木の穴に入ったら、ユキは体当たりして木を倒してくれ) (そなたが、戻ってこれなくなるではないか) (今は時間がない。俺の言う通りにしてくれ。木を倒されて文句を言う妖精達は殺さないように蹴散らして、ユキは宿屋に戻ってくれ) (うむむ) ユキは少し不安気な様子だったが、翼の説明を了承してくれた。 (リーフ、いいかい) 「あい」 リーフ!念話で話し掛けた時には、念話で答えるように言ったでしょ! 「何ですかな?」 黙って妖精達を睨み付けていた翼に、リーフが返事をしたので老妖精アルトにが訝し気に見ている。 「何故、神獣様はご同行されないのですか?」 「あんた達が俺達の棲みかに、勝手に入らないように見張っててもらう為だけど」 「ぐっ」 妖精の棲みかを、言葉だけでも、いつの間にか翼達の棲みかに塗り替えてやった。 たが、実際に魔物に取り憑かれた木を解放したのも翼達であり、否とは言えないはずだ。 「さあ、リーフ行こうか」 翼はリーフを胸に抱えて、木の根元にある穴へと一歩一歩近付いていった。 「あい」 念話で何があったかも気が付かないリーフは、ユキに手を振っている。 「うむ」 翼が屈んで穴に手を振れると、リーフごと穴に吸い込まれていった。
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