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第3話 白いライオン
ベビーリーフスライムのリーフと、のんびり街を目指して歩いていく。
もっとも、この先に街があるかは2人とも知らないんだけど。
ピョンピョンと翼の前を飛び跳ねていたリーフが、大急ぎで戻ってきた。
「おおきなしろいの、いたいいたい」
どうやら怪我した、白い何かがいるらしい。
「こら、先に行くと危ないかも知れないだろ」
翼は大きな物と言うリーフの言葉を警戒してステータスを開いた。
「う~ん、戦う気はないけど槍がいいかな?長いし」
HPは普通の村人の2倍だが、戦闘でHPが増えた訳ではない。
翼はあくまで、ワイン作りと料理を作って販売することで成長してきた。
しかもゲームをしていた頃にはなかった左手の障害が、今は現実として戻ってきている。
一通りの武器を揃えたけど、使ったことはない。
槍を右手に剣も腰にかけて、剣士なのか槍使いなのか分からないカッコウで、恐る恐るリーフの向かった場所に歩いて行く。
「でかっ」
白いライオンが血を流して、倒れている。
「リーフおいで、危ないよ」
いくら怪我をしていても、こんなに大きなライオンではリーフをひと飲みにしてしまうだろう。
「いたいの」
ああ、また自分の葉っぱで治してやりたいのか。
葉っぱを取るのは痛いって言ってたのに。
「おい、言葉は分からないだろうけど」
「人間か」
白いライオンが喋った。
「うわあっ┅┅話せるのか?」
翼は信じられないものを見て驚いたが、ライオンではなくて魔物であれば、話せるものがいてもおかしくはない。
だって、リーフが話せてるし。
「我は永いこと、生きてきた。いろんな種族の言葉が分かる」
こんな大怪我をしているのに、自慢かよ。
「その怪我をこの子が心配してるんだけど、治しても襲わないと誓えるか?」
「我の名にかけて誓う」
「┅┅」
「名前にかけるんじゃないの?」
「キマイラだ」
「君、ライオンじゃなくてキマイラなの?」
「おかしいか、笑いたければ笑え」
「あははは、どこに笑いのツボがあったのか分からないから笑うのは後にして、キマイラはスライムとかの種族名でしょ」
「スライムないの」
「ごめん、ごめん、リーフのことじゃないよ」
「スライムではないか」
「怪我を治して欲しいなら黙っててくれる」
「うむ」
「だからそれは君の名前じゃないってこと」
「では我に名前などない」
「じゃあ、どうやって名前に誓うつもり?」
「うむむっ、ではそなたが名を付けてくれ」
「え~いいけど、昨日から名前や呼び名を決めてばかりだな」
白いからユキ、雪は英語でスノー。
「ユキかな/スノーがいい」
『ユキを承認しました』
「┅┅」
「承認しちゃったって」
「我は」
「はいはい。文句は後で聞くから、まずはリーフの頭の葉っぱを食べるんだ」
翼はリーフに葉っぱ取っていい?とたずねて、そっと抜いた。
「いたいの」
「後でプリンあげるからな。偉いな」
「ぷるん、ぷるん」
プリンを覚えているらしい。ちょっと違うけど。
「はい、この葉っぱを食べて。手は噛むなよ」
翼はユキの巨大な口にリーフの葉っぱを持っていってやる。
「ムシャ」
ユキはひと噛みで飲み込んだ。
すると、みるみる血を流していた大怪我が治っていく。
「これは凄いな」
ユキが、ゆっくりと起き上がると、翼よりもずっと高い位置に大きな顔があった。
「リーフと言ったか?お前は我の兄弟だ」
「きょうだい?アニいる」
「俺がアニだから要らないってさ」
「ぐっぐっぐっ、ではユキと呼べ」
「いや~リーフがユキって呼ぶのはおかしいよ。ユキちゃんっ言ってごらん」
「ユキちゃん」
「ユキちゃんだと」
ユキの身体から魔の力が溢れ出して、周りの木々が揺れて衝撃が走る。
「うわっ、止めろ」
「びえ~ん」
「命の恩人を脅かすな。頭の葉っぱを抜くのは痛いんだぞ」
「頭の葉っぱ┅┅そなた世界樹の子供ではないか!?」
「え?世界樹って死人も生き返るっていう伝説の?でも、あれは木だろ」
「うむ」
「何が、うむだよ。俺もユキちゃんって呼んでいいか?」
「そちは呼び捨てにすればよかろう。リーフだけだ」
ユキは赤ん坊に泣かれて、ちゃん付けを許してしまった。
「そもそも我はスノーが良いと言ったではないか」
「いや~ハハハ。ユキとスノーは空から降る真っ白な雪。同じ意味なんだよ」
「ではゴンザエモンとルドルフが同じ意味だったら、そなたはゴンザエモンを選ぶのか」
「全国のゴンザエモンさんに謝って」
「全国のゴンザエモンって誰だ?」
「いいから謝って、これから美味しい物作るのに、ユキにはあげないよ」
「うむむむむっ、すまん」
ユキは、お腹が空いているらしく食べ物の誘惑に負けた。
「名前のことは悪かったけど、真っ白で綺麗なユキにはピッタリな名前だよ」
「ふん、名を付けたからには従魔になってやろう。そなたに我の兄弟は任せられぬ」
「ないない」
「兄弟じゃないって」
「ぐぬぬぬ」
「リーフ、兄弟は2人じゃなくて3人でもいいんだよ」
「さんにん」
「ユキが上のお兄さんで、俺が下のお兄さん」
「アニふたり?」
「呼び方は、ユキちゃんとアニでいいよ」
「あい」
「そなたも弟か」
「違う。兄じゃないと言われてかわいそうだから説明してやったんだ」
「うむ」
「そうだ、ステータス」
【名前 ユキ
【HP 5970/6500
【MP 4300/5000
【スキル 神獣
【種族 キマイラ
「何だこの5970ってデタラメな数字は?しかも全回復出来てないのか」
「ステータスが見れるのか?従魔契約したからか。しかも気になるのがHPか」
ユキはおかしそうに笑っている。
「ホホホ、フフフ」
「ほほほ、ふふふ」
リーフがユキの笑いを真似て笑った。
「リーフが真似するから気持ち悪い笑いは止めろ。収納全オープン」
冷蔵庫、焚き火台、ワイン樽もオープンさせた。
「食事作るけど、たくさん食べそうだな」
「我が食べる分くらいは狩ってくるぞ」
ビュンッ
ユキの姿は、翼が返事をする前に、あっという間に消えていた。
「じゃあ、リーフはこの間作ったプリンでも食べてて」
翼は冷蔵庫から出したプリンを引っくり返して、作り置きのカラメルをかけて出す。
「ぷるん」
「今日はユキもいるから、野菜巻き肉。先に付け合わせのパスタ」
フタ付の鍋に水と塩をいれて沸騰させる。
手作りパスタだから、直ぐに茹で上がるぞ。
先にソースを作ろう。
簡単にオリーブ油にニンニクと鷹の爪を熱して香りが出たらプラス、バター醤油をたらす。
さて、パスタを茹でといて。
ユキ用には大きめの野菜を、パスタを茹でるお湯にいれておく。
小麦粉を振って、その上にお肉は二、三枚まとめて敷いて太めのスティック野菜を5本くるくると巻いておく。
ユキの食べるのはでかくしてやらないといけないから、茹でた野菜は大きな薄切り肉で巻いておこう。
さあ、肉を焼いておいて。
パスタをお湯からだしたら、ソースと絡めて、お皿に盛る。
物凄い量だけど、それでも足りるのかな?
おっと、お肉を引っくり返して、オーロラソースを絡めて出来上がり。
「なんかデカ盛り定食屋さんになった気分だ」
ドサッ
「何だそれは、物凄い良い香りではないか」
戻ったユキの足元には、どデカイ魔物が息絶えて転がっている。
「その一番大きなっ、何だよそのデカイ魔物は┅それを解体しろっていうのか」
まあ、出来るけど。
それより、うわっ、まさかのオーガキングとか短時間に無傷で狩ってきちゃうのか。
「生で食べようと思ったのだが、やめだ。火を通すとこうばしい香りがするぞ」
ユキが周りの空気を全て吸う勢いで匂いを嗅いだ。
「うおっと、それ止めてくれ。リーフの頭の葉っぱが、引き抜かれる」
リーフの頭の葉っぱが、ユキの方向に棚引いている。
「うむ」
「おおきね」
リーフは自分の頭の葉っぱが、ユキの吸い込む威力で抜けそうなのにも気が付かずに、のんきに獲物の周りをピョーン、ピョーンと飛び回っている。
「リーフ、ご飯だぞ」
「ごはん」
「さあ、召し上がれ」
ユキには巨大な葉っぱを皿にして、大きな野菜肉巻きとパスタ大盛を出してやる。
リーフには多いかもしれないが、翼と同じお皿に野菜の肉巻きとパスタをこんもりとよそった。
「何だ、これは。我は生まれてこのかた、こんな食べ物は口にしたことがないぞ。肉の中の棒もよく合う。細いヒモも旨い」
ユキの白い口には、肉のタレやパスタのタレがベットリと付いている。
「おいしの」
リーフはパスタを一本ずつ手に取って食べるのが気に入って、時間がかかりそうだ。
「どれ」
野菜肉巻きを一本ひと口で食べると、肉の旨味を吸った野菜がフジュッとなって、オーロラソースが抜群だ。
「ヤバい。ワイン飲まなきゃいられない」
樽からコップにワインをいれる。
ユキにもボール皿になみなみとワインをいれてやる。
リーフには葡萄ジュース。
「お酒は飲めるか?俺が作ったワインだ。リーフはジュースな」
「酒か。昔、飲んだことがあるぞ」
ゴクゴクゴク
「これが酒だと」
ユキが暴れだしそうな勢いで叫びだした。
「気に入らないなら飲むな」
「止めろ。我の酒を取るな」
どうやら気に入ったらしい。
「ん?そなた我のステータスを確認してみろ」
「え?何だよ。ステータスオープン」
【名前 ユキ
【HP 6020/6500
【MP 4350/5000
【スキル 神獣
【種族 キマイラ
「うわっ、HPもMPも50ずつ回復しているぞ」
「やはりそうか。そなたの酒にはHPとMPを回復する力がある」
「そんな力あったかな?」
「普通のポーション並みだぞ」
「じゃあ、これで資金の心配もないな」
「うむ、酒好き冒険者には、たまらないな」
ユキはまるで自分が酒好きの冒険者でもあるかのようなことを言っている。
「ワイナリーが夢なのに、何となく方向性がずれてる気がしなくもない」
「これおいしの」
そこへリーフが話しかけてくる。
「え?」
リーフが腕をコップに入れて、ストローのようにして飲んでいる。
「あはははっ、子供の成長って早いんだな」
手を伸ばして食べ物を掴むことを覚えたばかりのリーフが、手をストローにしてジュースを飲んでいる。
今後は、どんなことが起きるのか楽しみだ。
こっちの世界だって、俺は夢を諦めないぞ。
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