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第4話 刺客
「ユキは物凄く強そうだけど、まさか冒険者パーティーにやられたのか?」
翼は、ユキと出会った時に、大怪我を負っていた理由を聞いてみる。
「それを話すには、我の生い立ちから話さねばならぬ」
「じゃあ、ワインでもいれてあげるよ」
翼はワインと、簡単に出来るクラッカーにチーズ、サラミをのせたつまみを作りユキの前に出す。
ユキはキマイラの王様の息子で、白い神獣として生まれた。
けれどキマイラは、頭がライオン、鷲の翼と蛇の尾を持つ種族。
白いライオンの姿をした王の息子を、後継者だと認めない勢力が半数近くいたと言う。
年老いた王が亡くなり、ユキが引き継ぎ、王になった日に反乱が勃発。
ユキを認めない勢力の反逆だった。
ユキは王の座を降りると言ったが、力を示したい若いキマイラが次々と戦いをいどんでくる。
他のキマイラよりも圧倒的な力を持つユキは、仲間と戦うことを選ばず、無抵抗で大怪我を負ってしまう。
これは、キマイラの王国が出来た頃の神託
『白いキマイラは別の姿で生まれてくる。
その者は神獣であり、全ての魔物の王である』
そんな伝承が語り継がれてきたらしく、今回の後継者争いは、ユキを神聖視するものと、ライバルとして排除したいものとが、いがみ合ってきた結果のようなものだと言う。
最初からキマイラの住み処は、ユキの居場所ではなかったのだろう。
「そっか、ステータスに神獣って出てたもんな。でもキマイラより圧倒的に強いってさすがだな」
翼は、ユキの美しいタテガミをなでてやる。
「ユキちゃんきれえ」
そしてリーフはまるで今の話が理解出来たかのように、ユキに寄り添う。
「うむ、もっとワインをくれ」
「いける口だな」
翼は、ワインを並々と注いでやる。
ユキは、翼のいれてくれたワインを飲みながら、2人との生活も悪くない、悪くないどころか生まれて初めての安らぎを感じている。
◇◆◇
「こっちの方向に真っ直ぐ行くと、どんな街があるんだ?」
翼は北に向かって歩きながら、ユキに質問をする。
「今歩いている方向は、砂漠だな」
「砂漠?街は?」
「砂漠を越えればサンドラ王国があるが、歩いていくのは厳しいぞ」
「じゃあ、どうしてこっちに歩いて行くんだよ」
「我は知らん。そちの行くところに付いて行ってるだけだ」
はあ、そうか。ユキが悪い訳じゃない。
でも、砂漠に行くわけないだろ。この無駄飯食いめ。
思わず心の声が、もれそうになる。
「今、我の悪口を言ったな」
「何も言ってないだろ」
「ないない」
リーフが2人の様子を心配そうに見上げている。
「何でもないぞ。それで一番近い街は、どっちなんだ?」
「一番近いのは山の麓の村だが、その山がキマイラの砦だ」
「それって近付いたらヤバいやつじゃない」
「うむ」
「じゃあ、次に近いのは?」
「このまま歩いて砂漠に出たら我の背中に乗ってひとっ飛びするか」
ゴクリ
翼は大きくツバを飲み込んだ。
「┅┅」
ひとっ飛びって単語が恐い。
「反対方向に歩いてエリュシオン王国に向かうか、東に向かってマケドニヴァだな」
ユキは、不服そうに返事をしない翼に、他の街の情報を話しだす。
「つまり、どこも近くないんだな。キマイラの山の麓以外」
リーフが、ピョンピョン跳んで歩き回る。
ザッ
その時、頭上からデカイ魔物が、リーフ目掛けて飛んできた。
「いたいの」
リーフの頭の葉っぱが、魔物の足に踏みにじられている。
「おっと、踏みつけるつもりが逃げやがったな」
「リーフおいで」
翼は、リーフに駆け寄り両手を広げる。
リーフは、すぐさま翼の胸に飛び込んできた。
「翼、我の後ろの木に隠れていろ」
「分かった」
「やっと見付けたぞ。死体がなかったから、逃げ隠れしてると思ったぞ」
ユキよりも一回り小さなキマイラは、ユキの話しを聞いたせいか、悪者のような悪どい顔つきをしている気がする。
「我がお前のような小物に本当にやられたと思ったのか」
ユキが全身の毛を逆立てて威嚇する。
「お前の死骸を皆の前に運んで、俺が王になってやる。ガハハハっ」
茶色いキマイラがユキに襲いかかってきた。
ユキは襲い来るキマイラの翼(羽根)を片腕で引き裂くと、首根っこに噛み付いた。
「ぎゃあああっ離せ」
「グシュッ」
ユキは片足でなんなく、キマイラの頭を地面に押さえ付けると、ぶしゅっと言う音をたてて頭を踏み潰してしまう。
見比べてみればユキと若いキマイラは、大人と子供ほどの実力の差があり、ユキは相手にしてこなかったのかもしれない。
でも今はかたわらに、翼とリーフと言う守らねばならない存在が出来てしまったので、戦わない選択肢が消えてしまった。
「終わったぞ」
「葉っぱいる?」
リーフの頭には、あらたな世界樹の葉がはえていた。
「リーフよ、大丈夫であったか?」
「いたいの」
「リーフ、よく頑張ったもんな」
翼は腕の中のリーフを何度も、なでてやる。
「ステータスオープン」
【名前 ユキ
【HP 6020/6500
【MP 4350/5000
【スキル 神獣
【種族 キマイラ
「ユキさんや、HPもMPも減ってないのですが」
「我があんな小物にやられる訳がない」
「そいつは、反乱の首謀者じゃないの?」
「おお、そう言えばこいつが我に噛み付いて来た奴だ」
「だったらこいつを持って、キマイラの砦に向かおう」
「どうしてだ?」
「反乱って言う位だから、これからも刺客が突然襲い掛かってくるんじゃないのか」
「我が返り討ちにしてくれる」
「こいつらが、ユキの相手にならないのは分かったよ」
翼の声が、怒りで低くなっていく。
「でも一歩間違えていたら、リーフは踏み潰されていたんだぞ」
「うむむ」
デカイユキが、背中をすぼめて小さくなっていた。
「ユキが悪いわけじゃないのは分かっている。でも一緒に旅をするなら片をつけよう」
「うむ」
「先程落とされたリーフの葉っぱを拾って、持っていこう」
翼はキマイラに踏みつけられたリーフの葉っぱを拾った。
「そう言えば麓の村の人が、自衛団を組んでキマイラを退治したり、その逆とかはないのか?」
「村とキマイラの王国は、はるか昔から持ちつ持たれつで、長いこと共存してきた」
「へぇ、魔物と人が共存か」
「おかしいか?」
「いや、ユキのお父さんは良い王様だったんだなと思ってさ」
つまり、バッグにキマイラの王国が付いていれば、村は他国に襲われないのだろう。
そしてキマイラの王国も村を襲わないことで、見逃されているのかもしれない。
共存共栄か。
「ごはん」
リーフはお腹が空いたらしい。
「ユキ、村はまだ遠いのかな?だったら、ここで飯にしよう」
「いや、あの先に見えて来たぞ」
100M先に森の出口が見えて、さらにその先に山と村が見えてきた。
「もうすぐ着くから、村で食べるか、食料を調達しようか」
「何かおかしいぞ」
ユキが、目と耳をそばだてている。
「キマイラたちに村が襲われている」
「そんな┅┅ユキ、同族と戦えるか?」
「無論だ」
「助けに行こう」
「では、我の背に乗れ。リーフを落とすなよ」
「ないない」
落ちないと言ったリーフが、自分でユキの背中に飛び乗ろうとして、背中を飛び越えて、反対側に落ちそうになる。
ユキが、頭でリーフを拾い上げて翼に渡す。
翼はリーフを抱えて、ユキにまたがった。
「リーフ、2本の腕をビューンって出して、ユキの背中の毛をギュッて掴んでね」
「ビューン、ギュッ」
リーフはユキの背中で、腕を2本出して、毛をギュッと掴んだ。
「待たせたな。行くぞ」
果たして村人は生き残っているのか。
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