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八割の蕾が開花を確認。
満開だ。
若干の肌寒さを残す土曜日の早朝、スーツ姿の若い男が白浜公園をうろちょろうろちょろ。手には青いシートをぶら下げている。
母:「あら、あの子去年も来てたわね。」
父:「ああ、そうだ。去年も朝一番に来てたな。若いのに関心だ。」
花見の場所取りだ。
近くの工務店で働いている若い営業マン、今年も社長に場所取りの任を任されたのだ。
「あ〜眠ぃ。早いとこ社長も、新人雇って欲しいもんだよ。俺だって今年でもう三十過ぎなのに………でも。」
誰も居ない公園で一人、ぶつくさ呟く。
「でも、この時間だけは満開の桜を独り占め出来るのは役得かもなぁ。本当に綺麗だ。」
ブルーシートを敷き終えた男は公園のベンチに座ると、しばらくの間桜を眺めるとどこかへ消えて行った。
子:「綺麗って言われちゃったー♪」
父と母:「良かったな(ね)。」
晴れ晴れとした土曜日の昼、ニュース番組では全国の桜の名所が映し出さるれ、未だ悩む人を刺激する。
ここ、白浜公園も例外で無い。敷かれたブルーシートには従業員をお始め、次々と近隣住民が集まっていく。
一升瓶片手に来る者、お手製のオードブルを持参する者と様々だ。皆、各々に花見のオカズを持ち合わせるのだ。中でも、一際注目を浴びるのは、大量の桜餅。和菓子屋を営む、佐藤さん家の手作り桜餅は毎年、老若男女問わずに大人気だ。
「えー、本日はお集まり頂き至極嬉しく…ヒックッ。思います。今後とも加藤工務店をどうぞ宜しく…ヒックッ、お願いします。それでは…乾杯っ!」
何度目の乾杯か、と笑い声と野次が飛ぶ。
「ヒックッ、ああそうそう。本日も朝から場所取りをしてくれたヒックッ、営業の木口君に拍手っ!」
パチパチパチ、拍手と労いの言葉が掛けられ営業の木口は「恐縮です。」と、まんざらでもない笑みでペコリと会釈する。とても気分が良さそうだ。
子:「パチパチきたーー♪」「楽しそーーー♪」
桜の子供たちも、眼下の楽しげな雰囲気に当てられテンションも最高潮。
花びらを花見客へダイブさせる。
母:「そんなに、一気に花びら落とさないのっ。」
とお叱りを受ける子もちらほら。
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