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お花見を
そんな母を目を盗んで遊びに夢中になる子がここにも。
子:「なぁなぁ、またアレやろうぜ。」
「え、なになに?」」
「決まってるじゃん、的あてゲームだよ。」
「あー、やるやる♪」
桜の子供たちは悪巧みでもするかの様に、ささやき合う。
子:「じゃあ、おれからー♪」
そう言うと、自身の花びらをヒラヒラと風に乗せる。右へ左へ花びらは踊りながら降下し、フワッと日本酒の注がれたおちょこの上へ華麗に着水した。
子:「よっしゃ。」、「すげー」「一発だ」「さすが」
桜の子供たちは美しい着水を決めた花びらを称賛してワキャワキャ、はしゃいでいる。
「おや、加藤さん。」
「こりゃ、めでたい。めでたい。」
どうやら、花びらが降りた先は工務店社長の加藤さんのようだ。
おちょこをクイッ。
花びらを浮かせたまま、日本酒を流し込んで一言。
「くぅー。うまいっ。」
「これぞ、春の味。」とケラケラとお調子者な加藤さんは、だいぶ酔いが回っているようだ。
楽しげな声は、辺りも明るく陽気にしてくれる。
いつしか散歩をしていた近所のお年寄りも、公園に遊びに来た小さい子供も混ざり、宴会はいっそう盛り上がる。
未だ眠っていた桜の子供も、そんな声に誘われて次々と蕾を開いてき、まさに見頃と言ったところか。
母:「あらっ。」
父:「おおぉ、これはこれは。」
公園のフェンスを指さす様に、桜の枝がユサユサ揺れた。母の指さす先には、一組の男女。
仲睦まじく手を繋いでこちらを指さして歩いているのが見えた。
ああ、なんと。
先日桜の木の下で告白をした彼女と、意中の男性だ。どうやら無事に恋仲となったみたいだ。
父:「お熱いようで何より。」
母:「良かったわぁ。もっとこっちへ来て良く顔を見せて。」
彼女らはそのまま、白浜公園へ入ると宴会……もとい、お花見をしている皆の近くへ寄っていく。
そして、彼氏と思われる男性が軽く会釈した。
「おー、佐藤さんとこのせがれじゃないか。なんだ、今日は彼女さんでも見せびらかしにきたのか?ハハハ。」と楽しげに絡むのは、既にヘロヘロになっている工務店社長の加藤さんだ。
男性は、頬を赤くし照れくさそうに「そんなんじゃ、ないですよ。加藤さんも人が悪いなぁ。」と、まんざらでもない様子。
「ほら、おばあちゃんとこの桜餅だ。お食べお食べ。」「彼女さんも遠慮せずに、食いね食いね。」「立ってるのもなんだ。座んな座んな。」と顔馴染みのご近所さんから。
二人は顔を見合わせ笑うと、ブルーシートの隅に隣り合って座った。
こうして、いつしか大世帯となった花見客は日が暮れるまでドンチャンドンチャン、ワイワイガヤガヤ春期限定イベントを楽しんだ。
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