白浜公園

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白浜公園

三月の終わり、今年も桜前線が列島を北上する。 とある公園。 この公園は決して大きくない、決して有名なんかでもない。ただ桜が、ソメイヨシノが数本植えられているだけの小さな公園。 しかし近隣に住む人は皆、口を揃えて言う。ここは、「知る人ぞ知る桜の名所」と。 「そろそろ目覚めるかな?」と暖かい声で。 「ええ、きっと。」と優しい声が。 「早くみんな起きないかなー♪」と元気な声も。 桜の幹は、"父"。 桜の枝は、"母"。 桜の蕾は、"子供"。 今宵の公園は少し騒がしい。 去年の夏に生まれた桜のは長い長い眠りから覚め、ふっくらとした蕾へ成長する。 うっすらピンク色を覗かせる蕾は、既に開花のカウントダウンへ入っていた。 子:「あーー早く皆に会いたーい。」 早咲きの子供は暇を持て余し弟妹たちの目覚めを心待ちにしている。 父:「それにしても、お前は毎年ホントに早起きだなぁ。」 母:「ちゃんと、皆が起きるまでジッとしているのよ。先に散らないように気を付けてなさいね。」 子:「ふぁ〜い。この前すんごい暑かったから、びっくりして起きちゃった。えへへ。」 三月の終わり、白浜公園一帯は観測史上最高の28度を記録し夏日となったのだ。 子:「ねぇ!あれは何!何してるの?」 桜の木の下、公園の街頭が照らすのは一組の若い男女。 「先輩、ずっと前から好きでした。」女性の震える声が聞こえてきた。 しかし、すぐに返事の声は聞こえない。 男は、「少しだけ考えさせて欲しい。」と言って公園を後にしてしまった。 母:「あらあら。」 父:「ちょいと、背中でも貸してやるか。」 女性はしばらくの間、桜の木にもたれかかると男性の向かった方向へと消えて行った。 父と母:「春だねぇ。」 ここ『白浜公園』は、知る人ぞ知る桜の名所。 海に面する訳でも無いのにと名付けられた小さな公園。
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