第六夜

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「!」  息をのんだ。たぶん、彼以外の全員が。  ぞく、と背筋を冷たいものが滑り落ちていく。恐怖心と危機感。  身を強張らせながら反射的に一歩後ずさる。 「な、なにそれ……。あんた、まさかまた……」  動揺で声を引きつらせながら、柚が言った。  だけど、包丁の切っ先がわたしたちに向くことはなかった。 「ちげーよ。……花鈴、これ」  ()を掴んだまま腕を押し出すようにして、夏樹くんが包丁を差し出してきた。  彼がまたしても残機の強奪(ごうだつ)目論(もくろ)んで仲間の命を狙ったわけではなかったと分かり、その点はひとまず安心した。けれど。 「え……?」  意図が掴めなくて、ただただ戸惑ってしまう。  包丁と夏樹くんを見比べ、眉を寄せる。 「それで俺を殺してくれていいから。おまえの残機、返させてくれよ」  見張った瞳が揺れるのを自覚した。  入ってきた言葉を飲み込めなくて、ひたすら狼狽(うろた)える。  今朝はそう言えないことを嘆いていたけれど、時間を経て、覚悟が決まったということなのだろうか。 「……で、できない」  小刻みに首を横に振り、また一歩後退する。  反対に夏樹くんは踏み込んだ。 「やれよ。やってくれよ」 「無理だよ……!」 「花鈴、頼むから!」 「やだ!!」  押しつけられた包丁を、払い除けるようにして思わず弾き飛ばした。  彼の手から離れたそれが宙へ投げ出されて落ちる。  どっ、と刃の先端が一瞬だけ床に刺さって跳ね、刀身ごと倒れた。回転するように転がり、闇の中に紛れ込む。 「おい……」 「わたしにはできない。誰も殺したくなんてない」  声が震えた。手も、肩も、気づいたら全身が震えていた。 「でも、おまえ、あと1回でも死んだらマジで終わりなんだぞ!? そしたら俺が殺したも同然じゃんか!」 「確かに怖いけど……夏樹くんのことは別に恨んでないし、仮にそうなったとしても夏樹くんのせいだなんて思わないから」  彼は結局のところ、そんな罪の意識から逃れたいだけなのかもしれない。  それでもわたしの身を案じて、残機を返したい、と言ってくれたことは嬉しかった。  確かに夏樹くんを殺して取り返せば、フェアになるのかもしれない。  でも、何があってもわたしにはできそうもない。 「お願いだから……もうそんなこと言わないで」
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