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鼓動がみるみる加速していった。
照れくさいのと嬉しいのと戸惑いとで、咄嗟に言葉が出てこない。
だけど、確かに彼の心を覗けた気がして、くすぐったい気持ちになった。
「……なに、もう! まーたいちゃついて。あーあ、どうせあたしはお邪魔ですよ」
面食らって圧倒されていたらしい柚が、ややあって我を取り戻す。
「暑いったらないわ」
ぱたぱたと手で扇ぎながら呆れ半分に言う。残りの半分は、やっぱり面白がっている。
「い、いちゃついてないから!」
「いいって、嬉しいくせに」
慌てて反論するけれど、にやにやとしながら一蹴された。
「や、やめてよ。朝陽くんに迷惑……」
「俺は迷惑じゃないし、困ってもないけど」
えっ、と思わず声が出た。
彼の方を見るけれど、暗がりの中では影しか見えない。でも、照らしてまともに顔を合わせる勇気はない。
どうしてしまったのだろう。先ほどからやけにストレートというか、迷いのない感じだ。
どきどきさせられる。
まさか、もしかして、本当に────。
──コツ……
──キン……ッ
唐突に物音が聞こえた。
はっとする。3人が3人とも警戒を深めると、浮ついたような空気が一変して凍てついた。
先ほどとは違い、重みを伴って早鐘を打つ心臓。
音は廊下の方から聞こえてきた。
「なに……? 何の音?」
「とにかく隠れよう……!」
聞き慣れない不審な物音に困惑しながら、それぞれライトを消す。
化け物にしろ、ほかの怪異にしろ、恐ろしい予感が漂って全身に絡みついてくる。
その場に屈み、手探りでテーブルの下に潜った。
周囲は壁に沿って配置された棚に囲まれている。隠れられるようなスペースはここ以外にない。
開けられたら、入ってこられたら、確実に見つかる……。
(来ないで、お願い)
──ガララッ
切実な願いも虚しく、扉が開けられてしまった。
──コツ……コツ……
近づいてきた硬い足音が、すぐ目の前で止まる。
ちかっ、と途端に眩しい光が射し込んできた。
「うわ、眩しっ」
柚が声を上げる。
ひやりとしたものの、返ってきたのは意外な反応だった。
「あー、やっと見つけた」
そう言った足音の主が屈む。
この声は……夏樹くんだ。
「夏樹!? もう、びびらせないでよ!」
文句を言いながらも心底ほっとしたように、ライトをつけ直した柚がテーブルの下から這って出る。
同じく抜け出して立ち上がったわたしと朝陽くんも、驚いてしまいながらまじまじと彼を見た。
「何してんの? こんなとこで」
訝しむように朝陽くんが尋ねる。
そうだ、彼は2階を探索していたはずだ。
“やっと見つけた”というのは、わたしたちを捜していたということだろうか?
「…………」
おもむろに夏樹くんが動いた。
後ろ手に隠していた何かを取り出す。
白い光をぎらりと弾く刃────包丁だ。
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