第六夜

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 強い意思を持ってそう言うと、夏樹くんは気圧(けお)されたように口を(つぐ)んだ。  だけど今度は柚が不服そうな顔をする。 「でも、実際かなりやばいじゃん。分かってる?」 「…………」  それはその通りだ。  終わらせる方法は分かったものの、“裏切り者”を特定するには至っていないし、今のところその気配もない。  だけど、夜は毎日必ずやって来る。  “裏切り者”を見つけて殺す前に、わたしが死ぬ方が早いかもしれない。  だから一時しのぎでも残機を分け合ってどうにか(しの)ぐのが現実的だ。  そう言いたいのだろう。 「何だったらあたしのこと殺したっていいよ。今のところ余裕あるし」 「やめてよ!」  自分でも驚くくらい強く拒んでしまった。  夢の中とはいえ、明らかに死ぬことへの感覚が鈍って麻痺している。  死が軽いものになっている。  屋上でのときと同じだ。  だからこそ、わたしを思っての言葉だと分かっていても、素直に受け取れなかった。  怖くて苦しくて不安でたまらない。  先行きが見えないのにあとがないという状況が拍車(はくしゃ)をかけていた。揺れる感情が止まらない。 「……花鈴」 「ごめんね……」  凍えるような声で小さく呟いた。  両手を握り締めても震えを抑えられない。止まない恐ろしさが肺を圧迫してくる。  一度、大きく息を吸ってから深く吐き出した。  弱気にしてくる負の感情をぜんぶ追い出すつもりで。 「────とりあえず今は鍵探そう」  ひと息で告げた。  今はそれだけが助かる道だ。時間を無駄にするべきじゃない。 「そういうことはまた明日考えるから」  これ以上、反論が出てくる前に、自分を殺せとまた誰かが言い出す前に、わたしはそう続けた。  その“明日”を迎えるために、今できることはひとつしかない。  南校舎側へ移り、夏樹くんも加えて探索を進めていく。  1階崩落までの残り時間は3分を切っていた。そのため4人で総力を挙げて、大急ぎで調べる。 「保健室の鍵ってあったんだっけ!?」 「ちょっと待って。えっと……」  ポケットの中からいくつかの鍵を取り出し、掌の上に並べる。  プレートを照らして確かめると、その中に“保健室”と書いてあるものを見つけた。 「あった!」 「早く……!」  焦って何度も取り落としそうになりながら、何とか解錠する。  扉をスライドさせ、柚とともに転がり込んだ。  朝陽くんと夏樹くんはそれぞれ、さらに西側の教室を確かめにいってくれている。  わたしたちは戸棚を開けたり、ベッドの布団を捲ったり、ワゴンを倒して中身をひっくり返したりしながら、手早く鍵を探していった。 「あ、見つけた!」
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