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わたしがいくら自分を疑っても、そうと口にできなかったのは、結局のところ身勝手なエゴかもしれなかった。
みんなに嫌われたくない。蔑まれたくない。
彼らの手で殺されたくない。
そう思ってしまった。
偽物の思い出と偽物の関係でも、わたしにとってはこの上なく大切なものだったから。
それに何より、みんなに手を汚して欲しくない。
たとえ既に死んでいるとしても、殺すなんてことはさせられない。
「……無理、だな。俺には」
ややあって、ぽつりと朝陽くんが呟く。
「正直、誰のことも疑えないし。この期に及んで」
それを聞いて、思わず眉根に力が込もった。
降り積もった疑念をぜんぶ吹き飛ばして、可能性ごと投げ出したくなる。
「…………」
この中に“裏切り者”なんていなければいいのに。
わたしじゃなかったらいいのに。……ううん、誰であって欲しくもない。
だけど、だからこそやるしかないと思った。
誰のことも殺したくない。殺せない。殺されたくないからこそ。
「……わたしがひとりで試すから。今夜、白石芳乃と話してみる」
「花鈴……」
「だから、みんなはいつもと同じように鍵を探して。うまくいかなかったときのために。朝陽くんと高月くんは、もう死ねないんだから」
うまくいかなかったときの保険は、わたしにかけるんじゃない。
みんなの命が優先だ。そうじゃないと、臆病になる。気持ちが揺らぎそうになる。
昨晩みたいな無理はもうさせられない。
「何があっても、悪夢は今日で終わらせる」
半分は自分に言い聞かせながら、覚悟を決めるために宣言した。
今夜で最後にする。
誰のことも死なせない。
◇
授業はないのに、あっという間に放課後の時間帯になった。時間が飛ぶように過ぎていく。
普通にお昼を食べて、普通に話をした。いつも通りの日常を装った。
でも、4人が4人とも何か言いたげな顔をしていた。屋上でわたしの考えを伝えて以降だ。
それでも、その中身がまだはっきりと形になっていないのか、それについては何も口にしないし聞いても曖昧に流されるだけだった。
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