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「……よし! じゃあここで解散で」
立ち止まった柚が声を張った。
いつもみたいに冷やかしたりしないのは、少なからず“いつも”と違う雰囲気を察しているからだろう。
だけど、内心までは知らないはずだ。
わたしの抱く残酷な可能性も。
ただ、今夜の結末が分からないことが不安で消沈しているのだ、と思っているはず。
「おー、そうだな。じゃ、いっぱい飯食って休んで夢に備えるか!」
「休むのはいいが寝落ちするなよ」
「誰がするかよ!」
夏樹くんは強気に返したものの、高月くんの言葉に青い顔をした。
“日没前の夢”は現実と直接リンクしている、ということを思い出したのだろう。
うっかり寝落ちすることは自殺行為と言えた。
「またあとでね、ふたりとも」
柚に手を振られ、わたしも反射的に振り返した。
浮かべた笑顔は少しぎこちなくなって、自分の不器用さを思い知る。
「また」
朝陽くんはいつもの調子で返すと、わたしに向き直って「行こ」と声をかけてくれる。
3人と別れ、ひと足先に学校をあとにした。
日の傾いた風景を目にしたとき、わたしの中にしまってあった思い出が光ったような気がした。
彼との記憶はこの時間帯の出来事が多い。
学校から帰る道だったり、一度帰ってから公園で集まって遊んだときのことだったり。
「……俺ね、昔を思い出すたび考えてたことがある」
おもむろに朝陽くんが口を開いた。
同じように回顧していたのか、穏やかな表情と声色だ。
「なに?」
「もし俺が引っ越してなかったら。花鈴と同じ中学に通ってたら。……どうなってたんだろう、って」
「え」
「あ、もちろん四六時中考えてたわけじゃないからな? ただ、たまに、何となく気になったりしてさ」
わたしの反応を気にしてか、言い訳っぽく彼は言う。
だけど、その“何となく”はわたしにも分かった。同じだったから。
小学校を卒業して、春休みの間に朝陽くんは引っ越していった。
桜が咲く頃にはもう、会えなくなっていた。
小さな手で握り締めた恋心は忘れられなくて、手放すこともできなくて、だから蓋をしておくことにしたんだ。
でも、たまに。
ふとしたときに、その蓋が開くことがあった。
朝陽くんと帰った道を歩いたとき。
一緒に遊んだ公園を通りかかったとき。
彼に貸したことのある消しゴムを使ったとき。
朝陽くんは今、どうしているんだろう?
彼のことを思い出してはそんなことを考えていた。
彼と仲のよかった男の子たちが談笑する姿を見たときもそうだった。
彼らは今も朝陽くんと遊んだりしているのかな、なんて、わたしには関係ないはずなのに気になったりした。
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