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確かめる方法はない。
死んで初めて答え合わせができる。
「……そう言う割に辛そうだけど」
的確に見抜かれてしまい、喉の奥が締めつけられた。言葉が詰まる。
ゆらりと視界が揺らいで、慌てて俯いた。
いっそう強く彼の手を握る。しがみつくように。
(……苦しい)
わたしが“裏切り者”で偽物なら、わたしがぜんぶを否定することになる。
朝陽くんの想いも。みんなとの絆も。過去も現在も、わたしを取り巻くすべてを。
だから、今は何も言えない。
結局は真実を突きつける羽目になるけれど、今だけは彼の温もりに縋っていたい。最後のわがままだ。
偽物だと証明されてしまう前に、彼の心を知れてよかった────。
「!」
ふわ、と頭に何かが乗せられる。
どこか遠慮がちに、だけどしっかりと、朝陽くんが頭を撫でてくれていた。
「昨日、小日向さんが言ってた通りだ」
「え……?」
「花鈴の手、冷たい」
思わずどきりとした。
(わたしがもう死んだ人間だから……?)
眉を下げて笑う彼の瞳から逃れるように視線を彷徨わせる。
「やっぱ怖いよな」
わたしが自分に向ける疑惑なんて知るよしもない彼はそう解釈したようだった。
そして、それもまた確かだ。
……怖い。怖くてたまらない。
今夜の行く末も、不確かな生死も、残酷な真実も、何もかもが不安で押し潰されそうだ。
ぎゅ、と右手が強く包み込まれた。
途端に震えが止まり、強張っていた身体に感覚が戻っていく。
「でも、きっと大丈夫だから。花鈴のことは死なせない。約束する。一緒に悪夢を終わらせよう」
何があっても最後までそばにいる、と言ってくれた朝陽くん。
夢から覚めるまでなら、この想いに身を委ねても許されるだろうか?
「そしたら。そのあとでいいから……」
そう続けた彼の双眸を見上げる。
窺うような眼差しとともに首を傾げられた。
「さっきの返事、聞かせてくれる……?」
ゆっくり、自然と頬が綻んでいた。
余計な力が抜けると、不思議と笑うことができた。
「うん」
普段と比べると、随分と弱々しい笑顔になっていたと思う。
だけど、朝陽くんはそれでもほっとしたように笑い返してくれた。
わたしたちは手を繋いだまま、夕暮れ時の道を歩いた。
踏み出す一歩一歩が、流れる一秒一秒が、惜しくてわざと歩調を緩める。
この時間がいつまでも続けばいいのに。
これからも朝陽くんの隣を歩けたらいいのに。
「…………」
“返事”なんて本当はとっくに決まっている。
目が覚めたら、一番に伝えたい。……もし、夜明けを迎えられたら。
「……ありがとう、朝陽くん」
「ん、なにが?」
「ぜんぶ」
「何それ」
朝陽くんは嬉しそうに笑った。彼が笑うと、なぜかわたしも笑顔になれた。
あたたかくて優しい体温が染み渡っていく。
この温もりを失いたくない。忘れたくない。
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