最終夜

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 その“ごめん”はわたしだけじゃなく、この場にいる全員に向けての言葉だと思った。 『別にいいだろ、どうせ夢の中のことだし。実際に殺したわけでもねーし』  一度は正気を失って、自分のことしか考えられなくなっていた。  だから殺されたけれど、衝突したけれど、今はそのことを深く反省しているように見える。 『それで俺を殺してくれていいから。おまえの残機、返させてくれよ』 『逃げろ!』  昨晩の行動からしてそうだ。  夏樹くんの言葉に疑いの余地はない。 「……とか言って。花鈴に何かあったら自分のせいみたいになるから、それが怖いだけでしょー」 「ち、ちげーよ! 本当に花鈴が心配で……! 償いたいだけだって」  茶々を入れる柚に彼はそう返した。  どちらもあるだろうけれど、どちらも本心なのだろう。  思わず小さく笑ってしまう。 「……まあ、僕も」  いつものように平板(へいばん)な声で高月くんが言う。 「どのみちひとりじゃ鍵なんて探せっこない。あと1回しか死ねないし、こうなったら日南を信じるしかない」  言葉の割には、渋々といった様子はなかった。  何だかんだでここまで、彼は常にみんなのことを第一に考えてくれていたような気がする。  時に冷徹(れいてつ)に先を見据え、進むべき方向へ正しく導いてくれた。  個と全体を気にかけながら指針になってくれた。 「みんな……」  それぞれの強い意志と覚悟を受け、圧倒されつつも素直に嬉しかった。  もしかしたら、わたしたちが帰ったあとに話し合った結果なのかもしれない。  つい泣きそうになりながら、朝陽くんを振り返る。  彼はいつも通りに微笑んで、何も言わずに頷いてくれた。  心強さを得て頷き返したわたしはみんなに向き直る。 「ありがとう」  全員で教室を出た。  暗闇の中にライトの光を振り向ける。  伸びた廊下の先、東側の突き当たりに“それ”はいた。  血まみれな上に表示灯に照らされ、全身が真っ赤に染まっているように見える。  長い黒髪と制服から滴る水の音は、この位置でもしっかりと拾えた。  折れた首を傾け、ぎらつく鉈を握り締める化け物が、こちらをまっすぐに捉えている。 「お待ちかねだな」 「ちょうどいいじゃん……」  油断なく化け物を見つつ、朝陽くんと夏樹くんが言う。  後者は強がりつつもどこか怯んだ様子だ。 「みんな」  おもむろに柚が呼びかける。 「巻き込んじゃってごめん」
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