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「もしそれがわたしなら、わたしだけを殺して。ほかのみんなのことは解放して」
言い終える頃には既に迷いを捨て去れていた。
化け物に対する恐れも、白石芳乃に対する哀れみも。
す、と鉈がわずかに彼から遠ざかった。
通じた……?
「花鈴、なに言って……っ」
慌てたように朝陽くんが振り返った。
きっと、わたしの発言すべてに困惑している。
「そうよ! あんたが“裏切り者”なわけないでしょ!?」
「冗談やめろって。ありえねーよ、そんなの……。てか、なにひとりで死のうとしてんだよ!」
柚と夏樹くんは怒っていた。混乱、拒絶、そんな感情を顕に激昂する。
「……そんなこと、まかり通るのか? 僕たちの手で“裏切り者”を殺さなくても自白で終わる?」
そんな中でも高月くんはやっぱり冷静だった。一歩先を見ている。
「ばか言わないで。花鈴が“裏切り者”なんて、あたし認めないから!」
「おまえが認めるかどうかは関係ないだろ。事実は事実だ」
「じゃあ何だよ。おまえは花鈴が死んでもいいって言うのか!?」
「そうは言ってないし、そもそも本当に“裏切り者”なら……もう死んでる」
「朔! あんたね────」
言い合う3人の声を聞きながら、わたしはそろそろと視線を朝陽くんに移した。
彼は呆然と青ざめた顔でわたしを見つめていた。
「そんなはずない……」
力なく首を横に振りながら、呟いたその声はほとんど音になっていなかった。
ごめん、朝陽くん。
前もって何も言えなくて本当にごめんね。
「……っ」
何か言葉を返そうと口を開いたとき、唐突に地鳴りが響いてきた。
──ゴォォオ……!
足元が傾き、校舎がぐらぐらと揺れ始める。
咄嗟に足に力を込め、倒れないよう踏みとどまった。
「きゃ……っ! いきなりなに!?」
「痛って……」
さすがに口論も止み、それぞれが戸惑っていた。
よろめいて壁に手をついた夏樹くんが、はっとしたようにあたりを見回す。
「おい、化けもんがいない!」
そう言われて初めて気がついた。
つい先ほどまですぐそこに迫っていた死の気配が、いつの間にか消えている。
不意に高月くんが吹き抜けの方へ駆け寄った。
手すりにしがみつくような勢いで下を覗き込む。
「まずい、崩落が始まってる……!」
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