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高月くんがドアノブを捻って押すと、ドアは何の抵抗もなく開いてくれた。
「開いた……!」
眩しいくらいの夕日に照らされ、思わず目を細める。
太陽は柔らかいのに、たなびく雲は血みたいに赤く染まっていた。
夕暮れ時。
なぜか不安を覚える、不気味な風景だ。
「どうなってるの……?」
今まで、一度もこんなことはなかった。
悪夢の中は真夜中よりも暗くて、どんな光も差さなかった。
一瞬“日没前の夢”に迷い込んだのではないか、と肝を冷やしたけれど、眠ったのは確かに夜だったし違うはずだ。
「ここから飛び降りたら……終わる?」
ふちへ歩み寄った柚が誰にともなく尋ねる。
いつになく自信なさげな声色だった。
無理もない。今夜はすべてがこれまでと違っていたから。
「化けもんが消えたってことは、そういうことなんじゃねーのかな……」
「日南の言葉を受け入れた?」
「かもよ」
夏樹くんと高月くんのやりとりを耳に眉を寄せる。
そうなのだろうか。そうだったらいいけれど、何となく胸騒ぎがする。
「ねぇ、どうすんの?」
「とにかく時間がない。飛び降りるしかないだろ」
高月くんもふちへと近づいていった。
校舎は轟音を響かせながら依然として揺れ続けていて、どんどん崩落していっている。
ここが壊れるのも時間の問題だ。
「僕たちや“裏切り者”がどうなるか分からないが……ひとまず悪夢から覚めよう」
わたしたちに言った高月くんは前を向いた。
一歩、踏み出して屋上から落ちていく。
それを見た夏樹くんは、恐怖や躊躇を吐き出すように深呼吸した。
「よし……。じゃ、またあとでな!」
はつらつと言ってのけると一直線に駆け出し、ふちから飛び降りていった。
まるでプールに飛び込むような勢いだった。
「……そうね、うん」
柚もどうにか不安に折り合いをつけたらしく、ひとりで頷くとこちらを振り向いた。
「花鈴、あんたも飛び降りてよ? 信じてるからね」
念を押すように告げると、今度は朝陽くんの方を向く。
「成瀬、引きずってでも花鈴を現実に連れてきてよ」
「大丈夫、分かってる」
柔和ながら凜然と返され、柚は安堵したようだった。
小さく笑い、覚悟を決めたように空中へ飛び込む。
わたしと朝陽くんだけが残った。
──ゴゴゴゴ……
轟音がいっそう大きく鼓膜を震わせる。
猶予はあとわずかだ。
「花鈴」
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