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第一夜
「ねぇ! ねぇねぇねぇ!」
朝の教室に明るい声が響いた。
予鈴が鳴ると同時に入ってきた親友の柚が、満面の笑みで歩み寄ってくる。
「おはよう。どうしたの?」
「おはよ! 花鈴はさ、うちの学校の怪談、知ってる?」
そう言いながら、空いていたわたしの前の席にすとんと腰を下ろした。
乗り出していた身体を思わず引っ込める。
何かいいことでもあったのかと思って弾んだ気持ちが、一瞬にして強張った。
「え、怪談?」
どう考えてもテンションと話の内容がミスマッチだ。
けれど柚は楽しそうに頷いた。
「あるんだって! うちの学校にも怖い話が」
目をきらきらさせながら言われ、若干気圧される。
怖い話はあまり好きじゃないけれど、苦手というほどでもない。
ここで話の腰を折るのも気が引けた。
好奇心旺盛な柚はもっぱらそういう話が大好きで、いつもわたしが聞いていようがいまいがお構いなしに披露してくれる。
「どんな?」
そう聞き返すと、待ってました、と言わんばかりに姿勢を正した。
軽く咳払いをして表情を消す。
雰囲気を作っているみたい。
「……日没後、プールの水面に自分の姿を映すと、女子生徒の幽霊が現れるんだって。その幽霊は何でも願いごとをひとつ叶えてくれる」
柚は人差し指を立てて言った。
待ってみたけれど、その先に話が続けられる気配はない。
「そこで終わり? 何かあんまり怖くないね」
むしろただのいい人のように思える。いい人、というか、いい幽霊と言うべきか。
てっきり“ただしその代わり……”的な文言が続くと思っていた。
願いを聞いてくれる代わりに魂を抜かれる、とか。
「だよね、あたしもそう思ってさー」
なんて柚はスマホを取り出した。
素早く操作すると画面をこちらに向けてくる。
何かのサイトのようだった。
真っ黒な背景に白い文字で、掲示板のようなデザイン。
「何これ?」
「学校裏サイト。ここで見つけたの」
「え、裏サイトなんてあったんだ」
ある種の都市伝説かと思っていたが、どうやらうちの学校にも存在していたようだ。
「それで、ほら見てよ」
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