13.皆で食べる時間が好き

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13.皆で食べる時間が好き

 可愛い服と靴を買ってもらい、代わりに私はエル様に似合いそうな帽子を選んだ。支払うと言ったのに、断られてしまう。曰く、この国では外出時に男性がすべて支払うのだと。  慣習だと言われたら、それ以上何も返せない。違うものでお返ししようと考えながら、やっぱり抱っこで移動した。降りて歩くと伝えるたびに、これから行く場所は混んでいると拒まれる。手を繋げば安全だと思うけれど、異国なので心配だと侍女のクロエもエル様に賛成した。  これが孤立無援というやつね。歴史の授業で習ったわ。  市場は新鮮な野菜や果物、肉と魚も並ぶ。アルドワンに海はないから、生の魚は珍しかった。川で獲れる魚より鱗が立派だし、驚くほど大きい。それを大きな包丁で、バラバラにしていく職人の手に見惚れた。 「すごいですね。バラバラになってしまいました」 「切り身にしてから販売するんだ。買っていって、今夜の食事に出してもらおうか」 「はい!」  エル様が注文を入れると、魚を捌きながらおじさんは承諾の声を上げた。後ろの大きなタライには、まだ何匹も魚が入っている。川で暮らす魚は白い身が多いのに、目の前の魚はオレンジ色をしていた。  焼いて食べると美味しいと教えてもらい、楽しみになった。笑顔で手を振って別れ、次は屋台の串焼きを買う。もうお昼に近くて、他にパンや飲み物も購入した。お店に持って入れるのか心配していたら、この先に広場があるらしい。たくさんの机や椅子が並び、どれを使ってもいいのだとか。  便利だし、好きなものを買って食べられるのは素敵。そう褒めたらエル様も嬉しそうだった。お姫様っぽくないが、外でカトラリーなしの食事は慣れている。農作業を手伝えば、銀食器なんて使わず、手で食べることもあった。  エル様のお膝に座り、串焼きを掴む。止める間もなく、ぱくりと横から齧った。大きなお肉の汁が、じゅわっと口いっぱいに広がる。噛みちぎって食べ、串の二つ目に刺さる野菜も頬張った。 「はははっ、これはいい! 私に似合いのお嫁さんだ」  エル様はよくわからない理由で喜び、逆にクロエは額を押さえて肩を落とす。私がお姫様らしくないのは、昔からよ。今頃落ち込まないでちょうだい。 「皆も食べてくれ」  大量の串焼きが入った袋を差し出し、受け取った侍従達も食べ始める。一般的に貴族が食べてから残りを頂くらしいけど、そんなことしていたら冷めてしまうわ。温かいお料理は、出来立てが美味しいのよ。 「エル様は屋台のご飯は好きですか?」 「ああ、アンも好きみたいだな」 「はい。硬かったり味が合わない時もありますが、それも含めて美味しいです」  侍女や侍従、護衛の騎士まで一緒にご飯を食べる機会は少ない。でもアルドワン王国には「同じ窯で作ったスープを飲む」という言葉があった。親しくなるには、一緒に食事をすればいい。そんな意味だと思うけれど、私はこの言葉が好きだった。  一人で食べても美味しくないだろうから。ずっとエル様や皆と一緒に食べたいし、同じ屋敷で暮らしたい。串焼きで汚れた手を舐めようとして、さすがにマズいと手を引っ込めた。  こっそりスカートで拭こうとして、クロエに手首を掴まれる。わかってる、やらないわ。
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