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73.エル様の態度が違う
先日からエル様の態度が変わった。隣を歩くとき腰に手を回したり、腕を組もうと誘ったりする。何か心境の変化があったのかしら。クロエ達は何か知っているみたいなのに、教えてくれなかった。
今もエル様と腕を組んでいる。小耳に挟んだ、胸を押し付ける作戦を決行してみた。余裕の微笑みが返ってくる。間違えた感じがするわ。もっと強く行くべきなのか、いっそ谷間に挟んでみる? でも、はしたない気がした。
パン屋の奥さんが言う通り、子ども扱いなのかも。妹みたいな出会い方をした。政略結婚って、年齢が釣り合わなくても家柄や利害で組まれる。だから私は気にしなかった。歳の差があっても、エル様は素敵だから。
戦いに強くて、優しくて温かい人。大きい体と綺麗な顔、王族らしい気品ある振る舞い。全てが私の好みで、一目惚れして以来、嫌いな部分を見つけられない。大切な人だから、その変化も一番に気づきたいのよ。
「エル様」
「どうした? アン」
「ふふっ、呼んだだけですわ」
呼んだだけ! この作戦はカトリーヌお姉様に教えてもらった。とっても効果が高くて、お義兄様もイチコロだったとか。このイチコロって、よくわからないのよね。コロっと落とすみたいな意味らしく、異性を誘惑した結果に使うのだとか。
俗語なので姫様はあまり使わないように、とクロエに注意された。でもお姉様が使っていたのに? とにかく使った相手が赤面したり、耳や首が赤くなったら、私の勝ち。ちらちらと確認すると、エル様は笑顔だった。でも赤いかわからない。
首もそんなに変化は……あっ! 耳が少し赤いわ。これは引き分けくらい?
「可愛いことをすると、食べられてしまうぞ」
脅すような言い方をして、エル様は私の髪にキスをする。ぽっと赤くなるのがわかった。私ったら、こんなに顔に出るなんて。
「その赤い耳や首筋も、美味しそうだ」
ちゅっと音をさせ、額にもキスをもらった。嬉しくて頬が緩んでしまう。両手で押さえたいけれど、エル様と組んだ腕も離したくない。
「さあ、そろそろだ」
促されて視線を向ければ、いつもの訓練場より奥にある林が見えてきた。今日は散歩ではなく、あの林で乗馬をする。といっても、私は何とか乗ることができる程度。エル様と走るほどの実力はなかった。
そのため、今日はエル様が横抱きにして走る予定だ。侍女も馬に乗れないため、三人の騎士が同行した。一人は女性騎士で、私の専属護衛にしたいと聞いている。今回は相性を確かめる、お試しでもあった。
用意された馬は立派で毛並みも美しい。芦毛と呼ばれる毛色で、大人しそう。馬を驚かせないように、正面へ回り込んだ。手を差し出し「よろしくね」と声をかける。ぶるると身震いし、エル様の愛馬は私の手に触れた。
頭のいい子ね。鼻の流星部分を撫でる。エル様は装着してあった鞍を確認し、私を抱いて馬の上に押した。経験は少ないが、馬に乗ったことはある。手綱を掴んで待てば、エル様が後ろに乗り込んだ。
私を引き寄せ、手綱ごと膝まで移動させる。すっぽりとエル様の腕に包まれ、胸に身を預けた。すごくドキドキしてるわ。
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