85.お式の客人が到着した

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85.お式の客人が到着した

 結婚式の一週間ほど前から、遠方のお客様が到着し始める。砦はお城もあるけれど、あまり部屋数が多くなかった。そのため、周囲の子爵家や男爵家にお客様を受け入れてもらう。  貴族が滞在することもある大きな宿は貸切だった。お兄様は明日到着予定だ。参加できないお父様とお母様へのお土産として、肖像画を用意した。エル様と二人で時間を作り、描いてもらったのよ。画家さんには無理を言ってしまったわ。  綺麗に描いてもらったので、喜んでくれると思う。完成した肖像画を、お兄様が滞在する予定の部屋に運び込んだ。でもドレスがバレちゃうから、しっかりと布で覆っておく。窓から見下ろす街は、すごく賑やかだった。お兄様も驚くんじゃないかしら。  ここ数年で、この城塞都市は拡大している。裏側の山へ向かって、大きく変形した形だ。前に迫り出すのは地形の問題で難しく、自然と山へ延長された。左側も歪に膨らんでいるの。新しく畑を開墾したらしい。  実は私も庭に小さな畑を作ったの。立派な野菜は無理だけれど、葉物やお芋を少し。収穫して食卓に出してもらう秋が、本当に楽しみだわ。 「陛下が予定より早く到着なさるそうだ」  実兄なのに、いつも他人行儀な呼び方をする。でも仲はよかった。理由を聞いたら、人前で間違えて「兄上」と呼ばないように、注意しているんですって。エル様の不器用なところ、なんだか可愛い。  ふふっと笑って頷いた。きっと大切な弟の結婚式で、気が急いているのね。陛下は国内なので、夫婦で参加される。お兄様と挨拶したいと聞いているから、到着したらお式の前に時間を作らないと。  考え事をしながら歩いていて、階段で足が滑る。ひやっとした。背筋がぞくりとして、肌が粟立つ。どうしよう、そう思った私をぐいと抱き寄せる腕があった。 「エル、さま」 「気をつけてくれ、妻になる身だぞ」  茶化して私を笑わせようとする。ぎこちないけれど、何とか笑顔になった。驚きすぎると、体も顔も強張るのね。 「ご主人様、国王陛下ご夫妻が到着されたと報告がございました」  エル様に抱きしめられた状態で、侍女からの報告を聞く。じっと見つめた後、彼女はにっこり笑って一礼した。呼び止める間もなく消えた侍女を見送り、はっと我に返る。エル様からそっと離れた。 「えっと、その……」 「あれはもう噂になってるぞ」  くくっと喉を震わせて笑い、エル様は私と腕を組んだ。心配だから下まで一緒に降りようと提案され、断りたくなくて。一歩ずつ降りた。階段が終わらなければいいのに。 「ふむ、この演出も悪くないな」 「リハーサルかもしれなくてよ」  国王陛下と王妃殿下が、階下でにこにこと迎える。慌てて腕を緩めようとして、エル様にさらに引き寄せられた。胸が腕に密着しているのよ。恥ずかしくなるけれど、仲が良くて結構と陛下は笑顔だった。  うん、明日結婚式だし、もう夫婦も同然だし、いいかな? でも顔が赤くなるのは許してほしい。やっぱり照れちゃうの。
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