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「アイツ本当に便利だな、弱っちいし。また次も利用させてもらおうっと」  桜の花びらを踏みつけながら、そう言った高橋はほくそ笑んだ。 無惨にも彼の靴底にすり潰された花びらは、ぐちゃりと土が混じり、コンクリートにへばりついた。 「どこか食べられそうな場所は……」 ―――カラン、コロンッ 「ん? 何の音だ」  彼の視線は、音のする方向に向けられた。道の向こうから見慣れない人物が歩いてくる。下駄を鳴らしながらゆっくりと、高橋の方に近づいてきているうように見えた。 「和服って珍しいな。それに、おかっぱ頭だ……でも女には見えないな」  だんだん近づいてくるその人物は、間違いなく彼を見ていた。最初はポカンとしていた彼だったが、その何かを訴えるような視線にだんだん苛立ちを隠せなくなってきた。  その和服の人物は、彼のそばまで来るとピタリと立ち止まった。身長が百七十センチある高橋と比べて、そこまで背は高くないが、なぜか奇妙な威圧感があった。 「何見てんだよ! 喧嘩売ってんのか?」  彼は怒鳴り散らして、その男を睨みつけた。 「……その焼きそばを返してくれないか?」  その和服の人物は淡々と、深みのある声で告げた。 「は? 意味わかんねぇ」  これは、俺のだ。そう言った高橋は焼きそばの入った袋を後ろに隠した。 「それは間違いだな。それは私たちのものだ!」  多少声を荒らげて、和服の男は言った。 「うっせえな、おっさん。SNSで晒すぞ?」  高橋はスマートフォンを取り出しカメラアプリを立ち上げて、その男を写した。  その瞬間、高橋の顔色が一変した。彼はなぜか涙目になり、スマホを放り投げた。そして勢いよく地面に落ちたスマホの画面は、粉々に割れてしまった。   「な……んで??」   ―――あんた、写らないんだ? 高橋は恐怖で顔を歪ませた。   「……あの木を見てごらん」    その男は多少怒りが収まったのであろうか。高橋に優しく語りかけた。   「あれは、きみが先週枝を手折った桜の木だ。一体どうしてそんなひどいことをしたんだい?」  高橋は男の指さす桜の木を見た。   「……なんで、それを知って」 「質問してるのはこっちだ。答えろ」 「……別に。理由なんかないぜ」 「そうか」 ―――残念だ。 男がそういうと突風が吹いた。 風がおさまると、そこには先ほどまで居たはずの高橋の姿が見当たらなかった。   「きみの生命力を、あの桜の木に与えることにしたよ」    その男は残された焼きそばを回収し、その場を立ち去った。  
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