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 ひとひらの花びらが、ひらり舞い落ちた。  桜の木々は風に揺られ、ピンク色の花弁が次々と道路の上を覆った。黒いコンクリートは、たくさんの花びらに覆われて次第に見えなくなっていく。    桜の名所で知られるこの街は、毎年春になると大勢の観光客で賑わう。特に「桜まつり」の時期になると、桜並木の小道は人でごった返す。地元の人々はその混雑具合にしょっちゅう愚痴をこぼすようになる。かくいうぼく、春風 秀(はるかぜ しゅう)もその一人だった。中学校から帰る途中で人波に揉まれてしまい、思わずため息が出た。  
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