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六
高橋にボコボコにされたぼくは、ベンチのすぐ横で気を失っていた。
茶色く湿った地面がひんやりと全身に伝わって、心地いい。
さくらっちはどこかへ行ってしまったのだろうか。
うっすらと目を開けたが、近くには誰もいないようだ。
「高橋のヤロー」
小さくつぶやき、起き上がる。
すると、額からポトリと何かが落ちた。拾い上げると、それは濡れた和柄のハンカチだった。
「あぁ、しまった!」
美しい模様が泥で汚れてしまった。
持ち主を探して辺りの様子を伺うと、どこからともなく声が聞こえた。
「調子はどうだい?」
「さくらっち!? どこにいるんだ!」
「足元だよ」
すぐに足元をみると、彼はぼくが倒れていた近くで焼きそばを食べていた。
「え? どうしてそれがここに」
「……何のことだ?」
麺を頬張った彼は素知らぬ顔をした。
「それ、高橋が持っていったんじゃ」
「さぁ、どうだったかな」
彼は紅生姜を口に放り込むと、あまり好みの味ではなかったようで、ブーッとその赤い塊を吹き出した。
「……行儀悪いぞ」
「ごめん……」
彼は申し訳なさそうに小さく肩をすくめた。
「そういやこのハンカチ、きみのかい?」
「あぁ、そうだ」
「ごめん、落としたせいで汚れてしまったんだ。洗濯して返すよ。それと……何だったかな」
殴られた衝撃でぼくは何だか大切なことを忘れている気がする。大切なこと……? あああ、そうだ!!
「作戦会議をしなくっちゃ!」
「もういいよ」
彼はさらりと言った。
「そんな! まだ何も話し合っていないだろう?」
頼む、もう一回チャンスをくれ……ぼくは懇願した。
「いや、そういう意味で言ったんじゃない。元に、戻すよ」
「へ?」
「お花見をこの街に返すよ」
「ほっ、ほんとうか! でも、どうして?」
「……しばらくの間は大丈夫だろうから」
そう言った彼は、何故かとても満足そうな顔をしていた。
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