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卯月
菜の花がぽつぽつと灯る道に、日暮れそびれた青のなか
お地蔵様を見下ろしていた。
夕焼けは狂気を誘うけれど、静かな青が深くなるなかで孤独を知る。昼間なら自分の影がある。
影は日暮れと共に夜にとけてどこかで息抜きをしているのだろう
ふっと気を抜けば異界に紛れ込んでしまいそうな春の危うさを毎年忘れてしまうのだ
見上げた夜桜や、端っこだけ咲いている雪柳、くすくす笑うような鈴蘭、
自虐的な菫
春の危うさはあちこちに潜んでいて常識をべろりとめくってしまう
夏の狂気はもっと生命力に溢れているし性欲は生欲なので、常識から飛び立てない。じっとりと根付いた欲だ
春の狂気はおぼろで儚くて彼岸に飛び立つ羽虫のようだ
もとからなかったように、桜は散るし羽虫も水に流される
わたしはどこにいくのだろう
それよりもどこからきたんだろう。
青が染み込んでいく
お地蔵様が、
じりじり、と回って
背面が見えたときに
元通りに世界がカチッとはまる音がした
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