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支え。
それには覚えがあった。
私だって宏明さんの支えがなかったらここまで来れなかった。とっくに潰れていただろう。
頭に冷水をぶっかけられたような気分になった。
自分だけ立派なふりをして。
自分だって支えてもらってたくせに。
だいたい私だって、宏海ちゃんを想いながら、他を探していたじゃないか。私を1番にしてくれる人を。
それはつまり、宏海ちゃんにとっての美帆子さんを探していたということだ。
見つけていたら、その人が潰れるまで支えにしていたかもしれない。
誰も皆、強くはない。
風に吹かれて、寄るべなく生きる。
その時に支えが必要なのは仕方のないことだ。
それを許せないと言うのは私の傲慢なのかもしれない。
何にせよ……どういう気持ちがあったにせよ、宏海ちゃんが自分の時間を山ほど使って私を育ててくれたことには変わりはない。
それについては感謝すべきではないのか。もう子供じゃないんだから。
「……美帆子さんを騙したのは許されることじゃない。だけど、育ててくれたことには感謝してる。ありがとうございました」
頭を下げた。
これは気持ちじゃない。礼儀だ。大人としての。
「いや……言った通り、全部俺の勝手でしたことだから、紅ちゃんに感謝してもらうことは何もない。こんな話して、心を掻き乱して……悪かった」
物心ついた頃にはすでに側にいた叔父と、別れる時がきたと感じた。
物理的にも離れるけど、それより気持ちが離れてしまった。
感謝の気持ちはあるけど、それより許せない思いが強い。
たとえ傲慢だとしても。
宏海ちゃんと過ごした圧倒的な時間が頭の中を駆け巡る。
お父さんじゃないけどお父さんみたいで、お父さんより優しい宏海ちゃんがいたから、どんな夜も怖くなかった。
感謝してる。でも許せない。
時間をかけて咀嚼するしかない。
納得できる日が来るのかはわからない。
私の人生は、どうやっても疲れるようにできているみたいだ。
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