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「あ、なんか私ばっかり話しちゃった。ごめんなさい。宏明さんのお話は?私に話すことがあったから呼んだんでしょ?」
またしても、沈黙が流れる。
何かまずいことを言っただろうか。
宏明さんは、腕を組んで、何か言いたそうな、だけど逡巡しているような、そんな顔をしていた。
沈黙に耐えかねて、口を開く。
ことさらに、明るく。
これで最後なんだと思うから。
「もうこんな時間かあ。長居しちゃったね、ごめんなさい。明日もお仕事なのに。ねえ、ここって夜景がきれいだね。最後にちょっと見せてもらおーっと」
立ち上がって窓の側に寄る。窓の向こうにはネオンサインがキラキラ輝いていた。
「すごいすごい、きれい!これ毎日見てるの?贅沢!」
はしゃいだら、不意に後ろから抱きしめられた。
驚いて、頭の中が真っ白になる。
「……大人の男は1人で寝ないんだよ」
どこかで聞いたセリフ。……ん?それは確か──。
思わず笑ってしまった。私があの時言ったセリフじゃないか。
「宏明さん、どうしたの?私の真似?……あー、おかしー……涙出ちゃった」
「……そんなに笑うことないだろ。そうか、笑われたらこんな気持ちか……学習した」
私はますます笑ってしまった。
「学習って……何言ってんの。もー……お腹痛い……」
「笑うなよ。……本気なのに。傷つくなー」
ん?本気?傷つく?なに?この流れ。なんでバックハグしたままなわけ?
くるっと向き直って、顔をのぞく。ふざけてはいないみたい。それにしても、なんで私はこの人の腕の中にいるんだろう。
「えー?本気って?……宏明さん、どうしたの?っていうか、話は?」
「話は……これだよ。話っていうか……うん」
どうにも歯切れが悪い。宏明さんらしくない。
「いやいや、勝手に納得しないでよ。わかんないよ」
「……わかんない?じゃあ、これでわかる?」
突然、キスされた。
私はびっくりし過ぎて、目を開けたままだった。
ぎゅっと抱きしめられる。
「……わかった?」
「……えっと……ちょっと待って……え?好きってこと?」
「そう」
宏明さんは、私を抱きしめたまま言った。
突然のことに、頭がついていかない。大混乱。
「好きって……宏明さん、私のこと好きなの……?」
「うん」
「それが言いたくて、今日呼んだの?……だから診察室じゃなかったの?」
「うん」
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