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セックスも、最初は順調にはいかなかった。
毎日一緒にいたら、当然そういう流れになる。
初めてじゃないし、普通にできると思っていたら、上手くいかなかった。
抱き合ってキスして、服を脱がされて、胸を触られた時、何かにスッと足元をすくわれた。
「宏明さん、待って。……待って。怖い……」
自分でも理由がわからない。体が震えた。
宏明さんは慌てて手を離して、
「紅、大丈夫か、ごめん」
そっと背中をさすってくれた。
考えてみたら、あの時勢いにまかせて抱かれて以来だった。
あの時はとにかく必死だった。今は……何に震えてるんだろう。
宏明さんは優しいし、無理にされたわけでもない。なのに怖い。
「あの時のことは、ノーカウントなのかもな」
私に自分のTシャツをスポッとかぶせて、背中をさすってくれながら、宏明さんはつぶやいた。
「状況が特殊だったし。……オレも急ぎ過ぎたな。いい歳して……。紅、ごめんな」
抱きしめられたら、涙が出た。
「ごめんなさい。こんなで……面倒な子で」
他人のことならともかく、自分の気持ちと体もコントロールできない。どうなってるんだろう。ショックだった。
「面倒なんて思ってない。オレが悪かった。もっとゆっくり進めるべきだった。怖がらせてごめん」
なんで宏明さんが謝るんだろう。謝らなきゃいけないのは私だ。前に1回してるんだから、普通にできると思うのが当たり前だ。最初の時、あんなに優しくしてもらったのに。
私は何でもスムーズにできない。必ず何かに引っかかる。このままできなかったらどうしよう。
「嫌いにならないで。どこにも行かないで。お願い」
心底悲しくなって、泣きながら訴えた。
「どこにも行かない。嫌いになんてならない。紅が好きなんだ。好きだから抱きたかったんだ。急ぎすぎてごめん」
宏明さんは、私をぎゅっと抱いて離さないでいてくれた。
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