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なんで怖いなんて思ったんだろう。
自分の心の中をのぞいてみる。
宏明さんって、誕生日いつ?血液型は?好きな食べ物は?
ハタと気付くと、普通の付き合いたての彼氏に思うようなことが並んでいく。
私、宏明さんのこと、あんまり知らないなあ。
分かってるような気がしてたけど、違った。
そうだ、最初の時も、もっと知りたいって思ったんだった。
まずは知ることからかな。
それからは、いろんなことをたくさん聞いた。
「誕生日はいつ?血液型は?好きな食べ物は?」
宏明さんは笑って、
「12月7日。O型。好き嫌いはない。……何を始めたんだ?」
1つ1つ、ちゃんと答えてくれた。
「彼氏のこと知りたいのって普通でしょ?……知らないから怖くなったんだよ、きっと。じゃあねー、学生の頃って部活何やってた?」
「部活はやってなかったけど、小学校の頃はサッカー小僧だった。毎日泥まみれだったな。トミさんがぶつくさ言いながら洗濯してくれてた。毎日風呂場も砂だらけ」
「えー、トミさん大変。お風呂、いつから1人で入ってた?小さい頃は、誰と入ってた?」
「3年生からは、1人で入ってたな。それまでは、……小さい頃は親父が入れてくれてた。あとは兄貴と入ってたな」
「お風呂で歌うほう?歌わないほう?」
……延々とそんな他愛もない話をした。
宏明さんは、飽きもせずに付き合ってくれた。
セックス以外のスキンシップもたくさんした。
『痛いことも怖いこともしない。嫌だったらすぐに左手を上げること』というルールは、宏明さんが作った。
毎晩寝る前に、キスしたりハグしたりお互いの体を触ったりした。
「ゆっくり、気楽に、紅の思うように」
宏明さんは私を、砂糖にハチミツ、ってくらい甘やかした。
よく髪や頬を撫でてもらった。
キスがいつも甘かった。
腕枕もたくさんしてくれた。
お休みの日に、朝から晩までベッタリくっついていたこともある。
「呆れてない?」
と聞いたら、
「紅と付き合った時点で、色々あるだろうとは思った。心配しないで、好きなだけ甘えて」
って言ってくれた。
「ではお言葉に甘えて」
その日私は、宏明さんの腕の中で1日中過ごした。
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