59人が本棚に入れています
本棚に追加
「紅は育った環境が複雑で、今までは周りに気を遣い過ぎてた。頑張りすぎてた。
いきなりは無理かもしれないけど、俺には気を遣わないで、好きなようにしていい。気楽にしてほしい。ずっと一緒にいるから、どこにも行かないから」
折に触れてこんなことを言ってくれた。
長年の習性は簡単には変わらないけど、宏明さんの前では楽に息ができるようになった。泣き虫になって、甘えん坊になった。
宏明さんは、どんな私でもいつも受け止めてくれた。
そうしているうちに、徐々に気持ちが安定してきた。
不思議なことに、宏明さんの様子もちょっと変わった。
私は笑顔が増えて、宏明さんは自分のことをアテにならない、と言わなくなった。
「最近、アテにならないって言わないね」
「紅にアテにされないと困るからな」
「……すごいアテにしてるなー」
パズルのピースがカチッとはまった感じがした。
お互い必要な存在になった感じ。
「私のこと、いつから好きだった?」
と聞いたら、
「覚えてないけど、ずっと前から。伝えるつもりはなかったけど、あの時に気が変わった」
って言ってくれた。
私はいつの間にか、あの夢を見なくなった。
あの夢は、きっと寂しさと満たされなさの現れだったのだろう、と思った。
「もうあの夢見たくないから寂しくさせないで」
と言ったら、
「わかったわかった、オレのお姫様」
って笑った。
愛しさがあふれる。
「なんであの時オレだったんだ」
と聞かれた。
「そんなの決まってるよ。
宏明さんは、私のガス抜き役で、お兄ちゃんみたいで、1番頼りにしてる人だったから。信頼してたから。全部預けてもいいって思えたのは宏明さんだけだったから。
他の人とか、考えなかったよ。
ガス抜きなんて、他の人にはできなかった。宏明さんだから安心して色々話せたの。
気づいてなかったけど、多分ずっと前から好きだった。戸籍のことがあるから遠慮してたけど、あの時にはもう好きだったんだよ、きっと」
「……なるほど」
満更でもなさそうだった。
最初のコメントを投稿しよう!