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そんなことの後に、美帆子さんに会いに行った。
本当ならもっと早く会いたかったけど、宏明さんと気持ちが通じたばかりの頃は、まだ不安定で自信がなかった。
美帆子さんには、嘘はつけない。つきたくない。
どう聞かれても、真正面から答えたい。
私にそう思わせるだけのことを、美帆子さんはしてくれた。
待ち合わせのカフェに現れた美帆子さんは、長かった髪をばっさり切って、ショートカットにしていた。
服装も、いつもの甘めな感じじゃなくて、濃紺のパンツに黒のタートル、というシンプルなスタイルだった。
思わず息をのんだ。心なしか、やせたみたいだった。
だけど私を見つけると、いつもの笑顔になった。
「紅ちゃん、久しぶり!……明兄ちゃん、ご無沙汰してます」
美帆子さんは、宏明さんの『サシで話をしたい』という申し出を頑なに断ったそうだ。
紅ちゃんが一緒なら、と言われていたけど、私の気持ちの状態が安定しなかったから、今まで会えなかった。
「成兄さんのこと、聞きました。ご愁傷様です」
「これは……いたみいります」
2人は大人のやりとりをした。
私はそれを、他人事のように聞いていた。
「大人の挨拶、終わった?美帆子さん、その髪似合ってるね!ちょっとやせた?何か甘いもの飲もうよ、ココアは?」
会えばいつでも、小さい頃の感覚に戻ってしまう。私のお姉ちゃん。
「今日はココアじゃなくて、紅茶がいいな。砂糖はいらないから、ミルクをたっぷり入れたい」
注文を通しに立とうとした私を座らせて、宏明さんがウェイトレスさんを呼び止めた。
「あれ、なんか2人雰囲気が」
美帆子さんはいつも鋭い。
「うん。実は姪を卒業して、彼女になっちゃった」
「ええー!!」
大きな目をさらに見開いて、超ド級のびっくり!って顔をした。それはそうだろう。
「いやあ、今世紀最大のびっくりだわ。紅ちゃん、何がどうしてそうなったの?美帆子姉さんに話してみ?」
「えー、美帆子さんが言ったんでしょ、好きな人ができたら根性で押しまくれって!私けっこう頑張ったんだよー。最初笑われたんだから!超失礼じゃない?」
頬をふくらませて宏明さんを見ると、
「紅だって笑っただろ、お互い様だ」
と譲らない。
美帆子さんは、そんな私達をくすくす笑って見ている。
紅茶にミルクをたっぷり入れて、にっこり微笑んだ。
「だけど良かった。紅ちゃんが幸せそうで。明兄ちゃんなら間違いないもんね。大事にしてもらってよね」
余計なことは一切言わないし、聞かない。美帆子さんらしい。
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