離れたくない

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離れたくない

 美帆子さんに会った後、私は落ち込んだ。  私がいなかったら、美帆子さんは宏海ちゃんの支えになることもなくて、あんなふうに傷つかなかった。  私がいなかったら、宏海ちゃんはお母さんに会わなくて、苦しい恋をすることもなかった。  そもそもが望まれない妊娠だった。  母はなんで私を産んだんだろう。  2番目……2番目に愛していたから産んだのか。  1番じゃないなら、産まなければ良かったのに、なんて思いながら眠ったら、夜中に目が覚めた。  宏明さんはぐっすり眠っている。  いつも私を包んでくれる、優しい腕。  ああ、産まれてこなかったら、宏明さんに会えなかったのか。  それは、それだけは絶対に嫌だ。  闇の中で、声を殺して泣いた。  誰を傷つけてもいいから、宏明さんといたい。  ああ、私はやっぱりクズの娘なんだ。  正真正銘、クズだ。  宏明さんを起こさないように、そっとベッドから出て、リビングに移動する。  ぐずぐずと泣きながら、カーテンを開けてネオンサインの夜景を眺める。  私が悲しくても嬉しくても、この夜景は変わらない。  毎日キラキラ輝いている。  見つめていたら、 「紅?」  振り向いたら宏明さんがいた。 「起こしちゃった?ごめんなさい」 「いや……。泣いてんのか」  慌てて涙を拭いて、 「あくびしたら涙出ただけだよ」 笑ってみせた……はずだったが。 「また色々考えてるな。ホラ、話してみろ」  宏明さんは苦笑してソファに座って、私を膝に乗せた。  こうされると、もう抵抗はできない。 「私がいなければ、美帆子さんも宏海ちゃんも傷つかなくて済んだのにって。なんで産まれてきたのかなって。望まれない妊娠だったのに。だけど産まれなかったら宏明さんに会えなかったから、……誰を傷つけても、宏明さんに会いたかった。私、クズなんだよ」  宏明さんの顔も見ないで、下を向いて一気に話した。  声が震えるのを止められない。  私がクズでも、嫌われないのかな。  闇に慣れた目が、宏明さんの表情を捉えた。  なんとも言えない、切ない顔をしていた。 「紅がクズならオレもクズだな。オレも、他の奴が傷ついても、紅に会いたかった」  ぎゅっときつく抱かれた。 「だいたい、今回のことは宏海が悪い。それは間違いない。ただ、……美帆ちゃんも、知ってて付き合ってたからな、宏海の気持ち。こういうのは、お互い様ってとこもあるし、難しいな……。だけど、どっちにしろ、紅が気に病むことじゃない。オレに預けて、もう忘れろ」  私は宏明さんにしがみついてぼろぼろ泣いた。
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