離れたくない

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「宏明さん……宏明さん、……抱いて。私をどこにもやらないって言ってよ。私のこと、好きって言ってよ。私しか見てないって言ってよ。なんで……なんでみんな……」  あとは言葉にならずに、しゃくりあげた。  みんな、自分の気持ちで精一杯で、私のことは考えない。利用される方にも気持ちがあることを、考えてくれない。  宏海ちゃんも、美帆子さんも、お母さんだって、自分の気持ちで精一杯だった。  美帆子さんを恨む気持ちはないけど、宏海ちゃんを振り向かせるために取り入った、と言われて、思ったよりも傷ついた。  今までの、嬉しかったあれやこれ、楽しかったあれやこれ、みんな裏があったのか、と思ったら、悲しかった。   『幸せを祈ってる。妹だからね、私の』  あの言葉も、もう素直に受け取れない。  結局、お姉ちゃんじゃなかった。  ただ、宏海ちゃんに恋する1人の女の人だったんだ。  キスで唇を(ふさ)がれた。  深い、甘いキス。  涙を拭われて、胸に抱かれた。 「紅。紅……好きだ。オレには紅しか見えない。どこにもやらない。どこにも行くな。オレのそばにいろ。もう泣くな」  宏明さんの声は、かすれていた。悲しそうだった。  頬となく首筋となく胸となくキスされて、ベッドに行くのももどかしくて、ソファで抱かれた。  私は泣きながら何回も宏明さんの名前を呼んだ。  その夜、宏明さんはいつもより少し乱暴だった。  朝起きて鏡を見たら、胸元にたくさんキスマークがついていた。  思わず顔が赤くなる。  起きてきた宏明さんに見せたら、シレッと謝られた。 「ごめん。紅があんまり泣くから、ついそんな気になって」  だけど全部、服で隠れるところについていた。キスマークの場所にまで気を回すなんて、宏明さんらしい。  優しさが、胸にしみる。  
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