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朝ごはんを食べながら、宏明さんが言った。
「ちゃんと甘えてくれて、良かった」
昨夜の自分の言葉を思い出して、赤くなってしまった。
あんなに何も考えないで思ったことを言うなんて、私じゃないみたいだ。
「……うわー、恥ずかしー……」
思わず両手で顔を覆った。
宏明さんは何て思っただろう。
「恥ずかしいことじゃないよ。言いたいことをあれだけ言えたら、もう大丈夫だな。安心した。……言えよ、ためないで。オレにはもっと甘えていいんだから」
『もっと甘えていい』。
私は食べかけのパンを皿に置いて、宏明さんの背中に抱きついた。
「宏明さん、好き。……大好き」
「うん。オレも好き。紅が1番好き」
抱きついた私の手を、宏明さんの大きな手が包む。
安心というものを、初めて教えてもらった気がした。
ごはんの後、洗面所で改めて胸元を見てみる。
キスマークって、初めて。
恥ずかしさより、嬉しさが勝る。
宏明さんのものってことだもんね。
おかしな話だけど、このキスマークで吹っ切れた。
みんなそれぞれ勝手で、私に対して真心はなかったみたいだけど、宏明さんがいるから、もういいや。
もう終わったことだ。過去なんだ。
私は宏明さんに想われてるから、もういい。
忘れるのは無理でも、必要以上に落ち込むのはやめた。
宏明さんは、私を頻繁に外へ連れ出してくれた。
郊外の大きな公園や、ショッピングモールや映画や、お高いレストランや夜景のきれいな展望台。
「何か欲しいものはないのか」
と聞かれたけど、思い浮かばなくて、無理やり考えて、
「ラムレーズンのアイスクリーム」
と言ったら、思い切り笑われた。
「こういう時ってさ、高いものねだらない?」
「……高いものって?例えば?」
「ブランドもののバッグとか指輪とか」
思わず笑ってしまった。
「そういうの、いらない。私には似合わないもん。まだ学生だし」
結局ホテルのラウンジにラムレーズンのアイスクリームを食べに連れて行ってくれた。
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