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宏明さんは、どこに行く時も手を繋いだり肩を抱いたりしてくれた。
「見られてるよ」
私が気にしても、
「いいんだよ」
平然としている。
噂が広がるのは早い。
『佐藤病院の跡取りが、姪とおかしなことになっている』
誰からとなく、そんな話が耳に入ってくるようになった。
「放っておいていい」
宏明さんはそう言ったけど、気にならないわけがない。
ほどなくして、宏明さんは実家から呼び出しがかかった。
噂が成子さんの耳に入ったに違いない。
どうしよう。
私は恐怖に震えた。
手なんか繋ぐんじゃなかった。
肩なんか抱かれるんじゃなかった。
一緒に出かけるんじゃなかった。
引き離されたらどうしよう。
もう1人で生きていく自信なんかない。
取り乱す私をよそに、宏明さんは平然としていた。
「俺たちのことは、いつかは知られることだ。悪いことをしてるわけでもないし、堂々としていればいい。言いたい奴には言わせておけばいい。それより俺が実家に行っている間、1人にするのは心配だから、トミさんのところに行っていてくれ」
トミさんは佐藤家に昔から仕えたお手伝いさんで、育児にほぼノータッチだった成子さんに代わって、宏明さん達三兄弟を実質育てた。
私も何回か会ったことがあるけど、そんなに親しいわけでもない。
「ご迷惑じゃないかな?」
心配すると、
「訳は話しておいたから。トミさんのとこにいてくれればオレも安心だ」
と、笑った。
宏明さんは実家に行く前に車で私をトミさんのところに送ってくれた。
「大丈夫だから、余計なこと考えるなよ。トミさん、頼むよ」
言い置いて、実家に向かった。
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