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おじいちゃんの贈り物
それからしばらくして、おじいちゃんから電話をもらった。
私とおじいちゃんは直接電話で連絡をとる。
小学生の頃から、
「たまにはおじいちゃんに付き合ってくれよ」
そう言ってご馳走してくれる。
その日は病院の近くのウナギ屋さんの2階を指定された。
座敷に上がると、もうおじいちゃんは座っていた。
「お待たせしてすみません」
向かい側に座ると、
「いやいや、少し早く来すぎてね」
おしぼりで顔を拭いた。
窓から公園が見える。小さい頃、おじいちゃんに遊んでもらった公園。
2組の親子が遊んでいる。
昔の私みたいに。
おじいちゃんはうな重を2つ注文すると、
「宏明は自分の口からは言わないだろうから、伝えておこうと思ってね」
と、話してくれた。
「成子に呼ばれて家に来る前、院長室に来てね、病院をやめてもいいかって聞くんだよ。
突然何だ、どうしたって聞いたら、紅を手放すつもりはないから、成子が激昂するようなら、出ていくしかなくなるかもって。
驚いたよ、今まで宏明はそんなに女性に執着したことがなかったから。
大事にしろとは言ったけど、なんで紅ちゃんなんだ、もしかして何か責任を感じてるのかって言ったら、なんでオレが責任感じなきゃならないんだ、そうじゃなくて、オレは紅が好きなんだって、顔赤くしてね」
紅が好き。
そんなことをおじいちゃんに言ってくれたんだ。
思わず頬が赤くなった。
「宏成が発病してから……いや、もっと前から、あいつは達観したようなところがあって、どこか諦めたような、主張しないっていうか……。
紅ちゃんには話したことがあったかどうか……宏明はね、もともと救命救急をやりたかったんだよ。
それが、宏成が発病して、跡を継ぐのが無理だってわかってすぐ、整形外科を専攻するって言い出したんだ。
おじいちゃんは、やりたいことをやれって言ったんだけど、跡取りがいなくなる不安があったことを見抜かれてね。ウチには救命はないからね。
救命は疲れそうだし、整形外科のほうが儲かりそうだからって。それ以来一言も救命のことは口にしなかった。……情けない父親だな、ホッとしてたんだから。
それが今回、剥き出しに願望を振りかざすもんだから、なんだか嬉しくてね。初めて生のあいつに触れたようで。
それでこっちも本気で成子にぶつかったわけだけど……」
うな重が運ばれてきて、しばし口をつぐんだおじいちゃんは、窓から公園を眩しそうに眺めた。
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