一緒に幸せに

1/2
前へ
/87ページ
次へ

一緒に幸せに

「引越ししよう」  と宏明さんが言った。 「引越し?」 「そう。紅のアパートを引き払って、このマンションも片付けて、どこか便利なところにマンションを買って」  あれから宏明さんは、私達の関係を(おおやけ)にした。  病院のスタッフの人達に、詳しく事情を説明して、患者さんに何か聞かれたら、隠さず説明するように指示を出した。  もともと皆、私達に血縁関係がないことを知っていたため、意外とあっさり受け入れてもらえた。  宏明さんがスタッフの人達の信頼を得ていたことも大きかった。  幾人かは眉をひそめる人もいたけど、古参の看護師さん達がバリアを張ってくれた。この件不問の雰囲気を作ってくれた。 「若先生がやっと見つけた幸せじゃないか、私達が応援しなくてどうするんだい」  1番昔からいる看護師長さんは、折に触れて皆に(さと)してくれたとのことだった。  成子(しげこ)さんは何も言ってこない。おじいちゃんが(にら)みをきかせているらしい。 「最初は公にしてなかったからこういう形にしたけど、もう好きにしていいだろう。アパートとマンションを行ったり来たりするのも面倒だし」  最近気づいたけど、宏明さんは意外と面倒くさがりだ。家事代行を頼んでいたのも頷ける。  なのに私の面倒はマメに見てくれる。アンバランスが面白い。 「紅はどんなマンションがいい?」 「どんなって……考えたこともなかった。でも、病院の近くがいいな。宏明さんの通勤に便利なように」  おじいちゃんから聞いたことは、大切に胸にしまうことにした。  私を好きだと言ってくれたこと、本当は救命をやりたかったこと。  これからは宏明さんに甘えるばかりじゃなくて、私も大事にしたいと思った。 「また紅は……気を遣うなって言っただろ」 「遣ってない。私も卒業したら病院の側の薬局で働くんだから、私にも便利でしょ? あっ、それとねー、キッチンは広いのがいいな。トミさんに習ったお料理、いっぱい作るの。冷蔵庫も大きいのがほしい。 あとね、高層マンションはやだな。2階とか3階がいい。高いところは怖いから。 日当たりがよくて、風通しがいいのも重要だよね。 それとー、窓は大きいのがよくてー……何?」  宏明さんは、私の顔をまじまじと見ていた。 「いや……珍しいと思って。紅がそんなふうに希望を言うの」 「そうかな。……そうかも。安心してるから、今」  ふふふ、と笑って隣にくっつく。  おじいちゃんに、私を好きだって言ってくれた。  私はもう無敵だ。 「不動産屋に連絡して、ピックアップしてもらおう。いくつか見せてもらって、いいのがあったら買おう」
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加