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独身証明書 後編
まどかちゃんから翌日電話がかかってきた。
「ねえ、今度の日曜日なんだけど、山登りに行ってみない?」
「急にどうしたんだい、山なんて・・・・」
「それは、ねえ、
山登りするとダイエットにもなるし、
気持ちがすっきりするんだって。
でもね、札幌市内の山は雰囲気出ないから洞爺湖の近くの樽前山に登ってみたいの」
「登山道具なんて持ってるの?」
高校生の時に買った登山靴と、ズボンと帽子ト、ストックがあります。」
「俊彦さんは持ってる?」
「ああ、2年前に一時期4カ所ぐらい連続して山登りしたよ・・・」
「へぇ~、そうだったったんだ。
じゃぁ装備は万端だから、
今度の日曜日は朝の6時に起きて札幌駅から洞爺湖半行きのJRに乗ってお昼までに
山頂まで登りましょう。」
「わかった。付き合うよ。」
こうして僕はまどかちゃんと
デートの約束をした。
当日はJRの駅を降りるとバス停があり、
30分ほどで樽前山の中腹の案内所に着いた
時計を見るとまだ9時52分で
山頂までは約1時間半でたどりつくということで、お昼までは余裕で間に合いそうだった。僕はまどかちゃんの手を握って登り始めたが、
10分程で疲れが出てきた。
ペースが合わないのだ、
情けないことに彼女の方が足腰が強く
自分はそのペースについていけなかった。
「なあに、男の癖にだらしないわね。」
「だって山登りなんて女性と一緒にしたのは初めてだし・・・・」
「いいわけはいいから元気だしなさいよ。」
僕は再びまどかの手を握り
男の根性を見せた。
夏の樽前山の中腹から見る景色は
北海道の雄大さを表現していた。
登り始めて気が付いたことは、登山道を歩いているのは意外と、若い女性と中年男性の一人登山が多かったことだ。
恋に悩む中年の乙女と
生活に疲れた中年男性が山に登る・・・・
その共通点は何か分からないけど、
僕たちは恋人同士に見えるらしかった。
「ねえ、あそこで休んで写真撮りましょうか。」
「そうだね、そうしようか」
付き合い始めて気が付いた事は、まどかちゃんと僕は誕生日が一日違いで、
彼女は3月2日で
僕が3月3日なのだ、
逆だったら良かったのだろうが、
神様は僕にいじわるをして、
ひな祭りの日に産まれさせたのだろうか・・・
それはどうでもいいことなのだろうけど、
同じ3月産まれでも彼女は「姉御肌」の性格のような気がする。
人から押し付けられて事を運ぶよりも、
自分がグイグイと相手を引っ張って行く
タイプ。自分とは逆だ、
自分は相手を引っ張るよりも
相手に合わせて協力するタイプの人間だ。
てことは、引っ張るタイプとそれに従うタイプというのは相性がいいのでないだろうか、
今の時点で僕が彼女よりも勝っていてリードできるのはベットの上だけかもしれない
人には決して言えないことでも、それは事実なのだから仕方がない。
「また、何か考えていたでしょー
エッチなこと?」
「いいえ、この状況では健康的な事しか考えてないですよ。」
「ウーロン茶飲みますか?」
「何か、言いたそうな顔してるけど、山頂まで着いたら話そうね。」
写真を5枚撮り、
僕たちは汗をふきながらまた歩き始めた。
「山登りは気分最高だね。恋人同士じゃなくても恋人同士みたいだね。」
「付き合い始めの時って、みんなこうなのかしらね。」
「付き合い始めのの頃が一番楽しいと思うよ。だって先が分からないから」
「そうなのかしら・・・私は臆病だからわかんないけど、そうなのかもね。」
さほど急な斜面もなく
めでたく樽前山の山頂にたどり着いた。
12時にはちょっと早いけど
二人で昼食を食べた。
前回同様に彼女が作ったおにぎりと、
卵焼きとアスパラとベーコンの炒め物と、
冷たいキューリを食べ
ウーロン茶を飲んだ。
お弁当を食べている彼女の横顔に幼さが残っていて、透き通った白い肌がまぶしかった。
「ねえ、私達って恋人同士じゃないけど、
付き合ってるんだよね。」
「うん、そうだね。恋人同士じゃないけど僕は君が好きだよ。」
「でも、恋人同士っていつから恋人同士になるんだろうね。」
「お互いがお互いを
好きだと認識したときです。」
「それとこんな説もあるよ、
好きだから付き合うのではなく、
付き合うからお互いをすきになるのだと・・・・。」
「それは、誰が言った言葉なの?」
「誰だったかは忘れたけど結婚関係の書物に書いてありました。」
「へぇ~、そうなんだぁ。」
「さて、山の頂上の空気も充分吸ったし、
記念撮影して帰りましょうか。」
「うん。」
帰りの列車の席に並んで座って、
気がついたら2人とも疲れて 寝ていた…
中学時代には何も起こらず、
ホテルの婚活パーティでも
お互い他には誰とも出会わなかったのに
何故か僕たちは付き合っていた。
これはひょっとすると運命の出会いなのかもしれない…
まさか…そんなはずがない。
まどかちゃんの思い描いている
「白馬に乗った王子様」とは程遠いこの僕が
彼女の運命の相手だとは
私には思えなかった。
札幌へ帰る急行列車に乗り
彼女の横顔を見ていたが
付き合ったばかりで結婚なんて
考えるほど私は単純ではなかった。
札幌駅までたどり着き
レストランでビールを飲んだ。
自分が注文した料理の味は覚えているが
彼女が何を注文して食べていたかまでは
思い出せない。
人間の記憶というのは曖昧なものだ 。
ただ 私の心に残っているのは日焼けした
彼女の頬がビールを飲んでさらに赤くなったこと、笑い顔、困った時の横を向いた顔
そして 帰り際お互いに帰る方向が逆だったので、私は地下鉄に乗り
彼女はバスに乗って帰ると言って
さよならした後 、
私が振り向いても彼女は振り向くこともなく スタスタと歩いて行った。
さよならは別れの言葉ではなく
再び会うまでの遠い約束…
年頃の女性を持つ両親が娘の交際相手が気になるのは理解できる。
出来れば、失敗しない相手を選んで欲しい。男女交際も結婚に無事にたどり着けばそれは成功した恋愛であり、結婚にたどり着けなかったらそれは失敗ということになるだろう。
結婚に成功と失敗があるように、
恋愛にも成功とか失敗があると考えた場合、
その失敗の原因が自分にあるのではなく、
相手にあると考えているようでは
良縁にはめぐりあえないのではと思った。
若い時は好きだとか、嫌いだとか
感情に振り回されるものです。
ある程度歳を取ると
一時の恋愛感情や好き嫌いなんて
長い人生ではあてにならない
と気が付きます。
恋愛コラムニストの話によれば、
男は本気になれば好きな女性を他の男に取られたくないから真剣になるのだそうだ。
だって、ものすごーーーく。
好きでもないのに、
熱く燃えろと言っても無理なわけだし、
今風に言えば、自分はとりあえずキープだけしているということになる。
私が恋愛に対して真剣に取り組めないということは、自己愛が強いのだろう。
世界で一番愛してやまないのは、
この自分であって
相手の女性ではないというのが
本心だとしても、
女性の前でそれを語れば、
すぐにお別れになってしまうだろう。
男女の出会い方は様々だ 。
学生時代から付き合っている男女もいれば 社会人になってから職場の女性を好きになったり、 友人の妹を好きになったり…
でも婚活パーティーで相手のプロフィールとか 年収とか年齢とかをじっくり 吟味して
しばらく 他の候補者と企画検討した結果
あなたと交際することにしました…
などと、相手から報告されても
心は ときめかないような気がする。
男女交際は就職時の面接じゃないんだから
あなたと今後も交際するかどうかは 1週間後に報告しますなと言われたら
私だったら気持ちが冷めてしまいますね。
婚活パーティーに参加する人も
ネットのアプリで婚活している人も
どこか打算的な匂いがプンプンする。
結婚に必要なのはお互いの愛情であって
相手の年収ではないはず…
年収が1000万以上あれば 愛なんかなくても女は結婚したいらしいが、
私は定年になっても年収1000万にはならないだろう 。
退職金をもらった年だけがとりあえず
1000万は超えるだろうけど、そんなジジイは結婚対象外と思われて 見向きもされないんだろうな…
私の付き合っていた
まどかちゃんも
あれから別の男性と付き合って
結婚したのだろうと思う。
付き合っていた時は好きだったけど
今では全然 愛していない。
喉元過ぎれば暑さを忘れると言うけど
男女関係もそんなものだと思う
2人のタイミングがぴったり合えば
うまくいくし。
合わなければ、
はい、 さようなら。
結婚する人は周りが反対してもするが・・・
独身者は周りから進められてもしない・・・
だって一番好きなのは相手じゃなくて
自分なのだから・・・
独身証明書 おわり
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