マーレゼレゴス帝国

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「口に合わなくても知らないからな」 「玲喜が作るものなら何でも食べるぞ」 「食べる~」  アッサリと言うものだから、玲喜は呆れ口調で尋ねる。 「お前らな、もしオレがスパイとか暗殺者(アサシン)だったらどうするつもりだよ」 「いいぜ? いつでも殺しに来い。そしておれと一緒に死ね」 「ちゃんと僕を殺してね~」  即答で返って来た予想外の答えに玲喜の方が戸惑ってしまった。そして二人が追加された夜食が始まる。 「玲喜、お前らが持ってるもん何だ?」  マギルが箸をジッと見つめていて、玲喜は「ああ、箸って言うんだ」と簡単に説明した。初めて会った頃のゼリゼを思い出して思わず笑う。  ゼリゼは今ではもう完璧に使いこなしているので、二人に向けて得意気に鼻を鳴らして笑った。 「おれらのも寄越せ」 「これは玲喜のいた国にしか売っていない」  表情一つ崩さずに嘘をついたゼリゼの足をコッソリ踏みつける。 「ゼリゼ、意地悪はダメだ」 「…………悪かった」  とうとうラルとアーミナが味噌汁を噴いて横向きに倒れた。  先程からの様子を考えると、暫く放って置いた方がいいだろう。  玲喜はラルとアーミナを横目に見て、二人に予備の箸を出すと使い方をレクチャーする。ぎこちなさも新鮮で良かった。  ふと視線を感じて、玲喜は廊下に続く物陰をジッと見つめる。  そこにはどこかバツが悪そうにしているシェフと料理人たち三名がいて、玲喜は目を瞬かせた。  ——ああ、だから材料が多かったのか。  納得した。 「玲喜様、あの……」  もしかしたら場所を話してしまったから解雇されるのを覚悟で来たのかも知れない。そんな雰囲気だった。  玲喜はあえて気が付かないふりをして言った。 「ちょうど良かったです。作り過ぎてしまったので、皆さんもご一緒にどうですか? オレは料理専門じゃないんで、皆さんのように高級なものは作れません。お口に合うかどうかも分からないので申し訳ないんですけど……」 「え……いえ、わたくし達は」 「皆んなで食べた方が美味しいですし」  遠慮されるのは分かっていたので、玲喜は先手を打つようにゼリゼたちに向かって尋ねる。 「いいだろ、ゼリゼ? マギル、ジリル?」 「玲喜がいいなら構わん」 「以下同文」  ゼリゼに続いてマギルとジリルが口々に賛同する。  シェフ三名は戦前恐々としながらも皆席についていて、今日は大人数での夜食会へと変わった。 「ふふ、オレ、こんなに大人数で食事するのって初めてだ」  玲喜が笑みを溢すと、ゼリゼは手を伸ばして玲喜の頭を撫でる。  また人数が増えて、賑やかな夜食会が開かれるようになった。  次の日、朝食をとりに食間に移動すると、そこにはマギルとジリルが先に来ていた。  ——あ? あれ?  どこか違和感を覚えて、マギルとジリルを交互に見比べたが、この違和感をどう表現していいのか分からずに玲喜は閉口する。 「自分の所で食事しろ!」  不機嫌全開で告げたゼリゼに双子が揃って口を開いた。 「「やだね」」 「…………」  双子は今日も息ピッタリだ。 「あー、ほらゼリゼ。早く取りに行こう?」  朝食にも双子が混ざると料理人たちには予め伝えられていたのか、ビュッフェ形式に変わっている。  玲喜は苦笑しながらも、ゼリゼが闇落ちしないようにゼリゼの手を引き、指を絡ませて繋いだ。 「なあ、ラルとアーミナはいつも何処で食べてるんだ?」 「ボクは家で」 「私もです」 「一緒に食べればいいのに」 「いえ、多分胃の中に入る前に逆流してきそうなので……」  普通に返事は来るが、二人の肩は笑いで震えている。 「お前ら、器用だよな……」 「おかげさまで。鍛えられましたからね……ブフッ」  ゼリゼを闇落ちさせないようにしている玲喜とは違い、二人はとても楽しそうだ。 「玲喜は何が好き~」  ジリルからの問いかけに振り返った。 「魚。でも此処の魚の名前分からないんだよな。オレの居た所の魚と種類も見た目も全然違うんだ。味は大体同じなんだけどさ」 「そうなの~? じゃあ、これ。僕のおすすめだよ」  ジリルが皿に盛った料理を玲喜の席に置いた。 「じゃあ、肉と野菜はおれが選ぶわ。妊夫は辛いのと塩っぱいのは控えろよ」 「へ? あー。そうなのか? 二人ともありがとう」 「どういたしまして」  ゼリゼが食べるものも選んで席につく。 「いや、オレこんなに食えねえし!」  玲喜は食が細い。少ない量を小分けにすれば一日五食くらいは食べられるが、一度に一食分をたくさん出されても胃に入る気がしなかった。 「食べれる分だけで良い。子どもの為に頑張れ。残ったら俺が食べるから安心しろ」  ゼリゼにそう言われてしまうと断りきれなくて、玲喜は頑張って箸を動かした。  食事が終わり、玲喜の中にあった違和感が確信に変わる。 「なあ、ずっと思ってたんだけど何でお前ら体の交換してるんだ? お前マギルじゃなくてジリルだろ?」 「え?」 「は?」  玲喜以外が目を見張り驚いている。  当の本人たちですらポカンと間の抜けた顔をしていた。 「何で分かったの?」  マギルの口調が変わる。 「ここに入った時。何かお前らに違和感を覚えたんだけど、上手く言い表せなくて、ずっと観察してた。でも今やっと分かった。ジリルは甘いものが苦手って言ってた筈なのに今食べてるし、マギルは逆に甘いものが苦手じゃないのに避けてる。それに立ち姿や仕草も何処となく違和感あるし。でもお前らの中身が入れ替わってるって考えれば納得いくんだよな。こういう魔法もあるんだな」  首を傾げた玲喜に応えるように、双子が揃って笑い出した。 「言い当てたの玲喜が初めてだよ」 「凄いな玲喜」  マギルの顔をしたジリルが笑い過ぎて眦に浮かんだ涙を拭う。 「これは魔法じゃないよ。僕らは魔力の他にも特殊な能力があるんだよね~」 「特殊な能力?」 「そう。皇后側の血が多いらしいね」  マギルの顔で、ジリルの言葉を発すると違和感どころの話しじゃなかった。
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