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先程リンが想像した事態となっている。そこで玲喜はある事に気がついた。
「なあ……ラルは? ラルもいた筈だろ?」
ゼリゼが痛々しそうに眉根を寄せる。それを見て玲喜は分かってしまった。
「う、そ。嘘だ!」
「ああ。それはそこの銀髪の皇子を庇って、真っ先に逝ったこの男の事か? お陰でそこの銀髪は殺し損ねた。そのアクアマリンの目を見ていると、不愉快で堪らないと言うに」
空に翳したレジェの左手が、時空の狭間から何かを掴んで引き摺り出す。見慣れた姿が変わり果てた状態となって床に転がされる。
「ラル!」
「邪魔ばかりするのでな、空気のない時空に閉じ込めておいた」
「何してんだよっ、お前!」
「うるさい。お喋りもそろそろ飽きた。お前らも目障りだ。全員纏めて消えろ」
ニンマリと嫌な笑みを浮かべる。
レジェの左手の中で、赤黒い炎が生まれて大きくなっていく。マグマが迸る火山火口にでもいるような気分だった。
特大級クラスの火属性魔法攻撃が来る。レターナとレジェ以外の体が硬直した。
——熱い……っ。
体内の水分も血液も全て沸騰しそうなくらいの熱に、全員顔を顰める。玲喜の腕はゼリゼに掴まれて引き寄せられた。
「玲喜、マギルのそのネックレスを引きちぎれるか? それはマギルの魔力制御装置だ」
耳打ちされた言葉に無言で応えるように、玲喜は首元にネックレスを引きちぎった。続いて、ジリルが己の耳に付けていたカフスを全て引き抜く。横でもゼリゼが指輪とネックレスを取り除いた。
途端に三人の魔力が増幅する。
「その程度では無駄な足掻きだ」
含み笑いを漏らし、レジェが可笑しそうに肩を揺らして笑った。
「玲喜、絵本を思い出せ」
「絵本て……セレナの?」
「そうだ。あれは絵本というより予知書に近い。セレナはいくつも布石を置いていた。王族の衣装、装飾品、ラルを日本に招いたのも恐らくはセレナだ。俺も布石の内の一つだったのかも知れない。絵本に書かれていたように、全力で浄化魔法と前にラルが教えた闇属性の攻撃魔法を打て。セレナを信じろ」
返事をする間も惜しむように、玲喜が呪文を言葉に乗せていく。
隣にいるゼリゼの言う通りに口にすると、白と緑の魔力が混ざりあう。
マギルの魔力も乗せられているようだ。その上にゼリゼの黒い魔法壁が展開されていき、ジリルの水魔法と全てが融合した。
「あ、出遅れてしまいました!」
「へ?」
玲喜が目を丸くする。てっきり死んだものだと思っていたラルの声が聞こえたからだ。
「お前何故生きている?」
レジェでさえ目を見開いている。想定外だったらしい。
「遅いぞラル! 急げ! 早く俺たちのリミッターを全解除しろ!」
「はい!」
ラルが両手を広げた瞬間、部屋の中に様々な種類の色も大きさも異なる魔法陣が沢山浮き出てきた。
「何だ、これは」
「何よこれ……、まさか……!」
レターナがレジェに駆け寄り腕の中に匿おうとする。
しかしそれはリンによって止められた。
暴れるレターナを取り押さえて、リンが尻尾を振る。警備隊は即座に眠ってしまったのに、レターナに効かなかった。
それでもリンは力を緩めはせずに羽交い締めにする。
「ちっ、離しな! この化け猫!」
「アタシの目的はこれ以上アンタが暴走しないようにする事だからね。離すわけないじゃない。今度こそ終わりだよレターナ。昔、自らの半身だった良心を殺したのを悔やむといいわ。全力のアンタだったらアタシに止めるのは無理だったからね!」
リンから黒い文字が沢山描かれている帯状の結界が出てきてレターナに巻きつく。
動きを制限して足止めをしている間に、ラルの準備が整ってきていた。
現れた各種の魔法陣にヒビが入り、砕け散って行く。それを食い入るように見つめていた。
「玲喜、例え何があっても俺はお前だけを愛している」
「オレもだよ……ゼリゼを愛してる」
「ねー、その絵面も音声もキモいからやめて~」
内側からマギルの「おえっ」て声も聞こえてきて、少しだけ三人で笑った。
主導権を握って体を動かしているのは玲喜だが、マギルもちゃんと中にいる。
見た目もマギルのままだ。鏡で映せばもっと笑ってしまいそうだ。
「リン、ありがとう」
「後は任せておいて。手加減もしなくていい」
長い年月をかけてこの時の為にリンも色々と準備を整えていた。
一度は混ざり合った魔力が、反発しあって衝突音を響かせながら離れる。
「ジリル、先に頼む!」
「分かった。僕が補助する。——שדה שלג」
「קירי אליסון」
『סְעָרָה&דחף הרוח』
「לייזר רצח עם שחור」
完全に準備が整った気配を察した三人が口々に唱えた。火属性魔法にジリルがデバフをかけて足止めし、玲喜がその場を浄化した。その上でマギルの風魔法を使ってレジェとレターナの呼吸を止めて気絶状態にする。暴風雨と共に黒い矢が飛び、ゼリゼが最後に放った闇魔法で城ごとその周辺全てが消し飛んだ。
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