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「え、嘘……だろ」
解けないと言われはしたが、このままなのは妙な屈辱感と羞恥心を煽られるだけだ。そんなの耐えられそうにない。
玲喜は片っ端から知っている解除魔法を幾つか唱えてみた。
辺りはシンとするばかりで効果はなく、触手が好きに暴れ回る。
「は、はぁ、ん、や、ァア、あ!」
そんな玲喜を嘲笑うかのように触手は容赦なく体内を行き来し、性感帯全てを刺激していく。
陰茎に絡みつき、扱く動きを見せたばかりか尿道にまで入り込みそうになってきて、玲喜は慌てて自分の陰茎の先端に手を当てた。
「ひあ、あ、あああ、ァッ、あーーー!」
逆に決定打となる刺激となってしまい吐精する。精液が手を伝って床にも落ちていった。
「はぁ、は、あ、はあ」
荒い呼吸を肩で整える。
ベッドに行こうか迷ってもいたが、この調子ではすぐにシーツをベタベタにしてしまうだろう。
玲喜はそのままシャワールームにいる事にした。それに、ここに居た方が誰かに覗かる確率も低そうだった。
風呂に入っているのが分かっていて態々覗く輩などいないだろう。
そうたかを括って防音魔法をかけようとした所で、想定外の事が起きた。
「玲喜いるか?」
「玲喜~?」
タイミングを見計らったかのように、扉を開く音と共にマギルとジリルの声が聞こえてきたのだ。
——は? 何で!?
普段は予告なく現れたりしないし、部屋にはアポなしでは通れない防御壁が張られている筈なのに、機能していない。恐らくはゼリゼが態と解いている。
——嫌だ。どうしようっ。
絶体絶命のピンチに、玲喜は身を震わせた。
「あれ~? 部屋入れるよ~?」
「……っ!」
妙な声が出ないように気をつけながら、見つからないように声を押し殺す。
「あ? 何だこの魔法?」
マギルの声が脱衣所を挟んだ向こう側で聞こえた。
「ひ……ッ、ぅ……、ん」
「玲喜?」
脱衣所まで入って来られ、とうとうシャワールームの扉に手をかけられる。
「ここだったりして~?」
心臓が暴れ出しそうな程に脈打っていた。
——ダメだ。見られる……っ!
音を立てて扉が開く。
身構えた瞬間、内部の触手が蠢き、奥へ奥へと入り込んできた。
——やめろ。無理無理無理無理ー! 今、そこはやめてくれっ!!!
体が大きく戦慄く。
「ん、んんんんんんんーー!」
願いも悲しく盛大に中でイかされてしまい、力なく前のめりに踞る。
頭の中が真っ白になって、光が明滅していた。
息が苦しい。酸素が欲しい。
痙攣するようにビクビクと震える体も止まらなくて、ギュッと目を瞑る。
——最悪だ……見られた……っ。
これでは一人遊びする単なる変態だ。
「う……っ」
とうとう泣きが入って、ボタボタとシャワールームの床に涙が落ちていった。
「何だ、いな~い。あーあ、残念」
——え……見えてない?
ため息混じりに出て行くマギルたちの後ろ姿を見つめる。
何はともあれホッと胸を撫で下ろす。
が、狙っていたかのように触手が激しく体内を出たり入ったりしていき、玲喜は堪らず叫んだ。
「ん、ぁッあ、あ、や、ああーーーッ!」
イったばかりの体には刺激が強すぎた。続け様にまたイかされれば、声を殺す事も叶わなかった。
「も、嫌だ……ぁ」
今度こそバレてしまったと思ったのだが、二人の足音は遠のいていく。
——声も……聞こえていない?
玲喜からは見えるし聞こえるが、相手側からは姿も見えず声も聞こえないとなると、マジックミラーのような仕組みになっているのだろう。
人が悪いにも程がある。そう思ったのと同時に、ゼリゼの怒り具合が分かった気がした。
元々度を越す程の妬きもち焼きだった。玲喜の事に関しては、執着心も半端ない。
マーレゼレゴス帝国に来て、寛容になってきてはいたが、もしかしたら我慢している部分もあったのかもしれない。
それは玲喜も同じで、ゼリゼの優しさに甘えていた。
だが、ゼリゼと玲喜の関係を一変させた飲酒に関しての経緯を軽視し、己に好意を寄せるジリルに玲喜自ら同じ事をしかけたのが相当頭にきているのだろう。
考えてみれば、アルコールを飲める筈のゼリゼ自身が飲んでいるのを見たことがない。思い出すと慢心に至っていた思考全てが瓦解した。
「ごめ、やだ……、嫌だ……、ゼリゼ。こんなの、嫌だ。お前以外……嫌だっ。ごめん……ッ、オレが悪かった。ごめんなさい。本当にごめん。ゼリゼ以外……っ、嫌だ」
小刻みに揺れる体を抱きしめ、床に額をつけてひたすら此処に居ないゼリゼに詫びた。
「お願……、嫌だ。ゼリゼ。ゼリゼ……」
しゃくり上げて鼻をすする。
「ち……、もう少し虐めてやろうかと思っていたんだがな」
小さな舌打ちの後掛けられた言葉に勢いよく顔を上げると、出て行った筈のゼリゼがいて、玲喜の顔が歪んだ。
ゼリゼは初めからずっとその場にいた。見えなかっただけで側にいてくれていた。
内部を埋め尽くしていた触手が消えていく。
「つくづく俺はお前に泣かれるのに弱いらしい」
引き起こされて正面から抱きしめられると、また涙腺が決壊した。
「泣くな、玲喜」
いつもの柔らかいゼリゼの声音だった。
「う~……。ゼリゼ、ごめん……。オレ……ごめん、なさい。愛してるのは……ッ、ゼリゼだけ、なんだ」
嗚咽に声を揺らしながら喋ると、背を摩られて後頭部を撫でられる。
「何も、分かってなかった。もう絶対しない。許して……くれ」
何も言われない事に不安を抱くものの、背を摩るゼリゼの手つきは優しかった。こうされているだけで安心感に包まれ、玲喜の涙も止まっていった。
暫くの間静寂が訪れ、ゼリゼが口を開いた。
「で、玲喜、あと何人産む?」
「……」
——あ、そっちは本気だったんだ。
内心思いはしたものの、言葉にはしなかった。
「ゼリゼ……あの。でもオレの血が入ると、オレやキナリと同じ運命を辿るぞ……。マーレゼレゴス帝国がまた危機に陥る」
「それなんだが……。お前、キナリを見ていてどう思う?」
真っ直ぐに見つめられて問いかけられる。
「どうって、アクアマリンもあるし、今は落ち着いていて本人のままだ」
玲喜が言うとゼリゼはニヤリと笑みを浮かべた。
「あいつ俺の前では、たまにもう一人と入れ替わっているぞ。穏やかだがな」
「え?」
「大方、お前にはバレると双子にでも言われているのだろう。昔あの双子の入れ代わりをお前は見破っているからな」
驚きを隠せなくて、目を見張る。
「かつてセレナもそうだったようだ。内側にいたのは弟だったようだがな。ラルに調べさせて、上手く共存していたのが分かった。これがどういう事か分かるか?」
目の前にいるゼリゼを食い入るように見つめると、優しく唇を啄まれた。
「玲喜……恐らくお前を戒めていた呪縛はとっくに解けている。いや、そもそも本来は共存していたのだろう。それを先久代王が捻じ曲げただけだ」
「じゃあ、キナリも……?」
「お前から見てキナリは危険を孕んでいるように見えるか?」
逆に問われ、玲喜は緩く首を振った。
「見えない」
「それが答えだ」
今度は違う意味で泣けてきて、瞬きをする度に雫が散った。
「……っ、良かっ……た」
「本当はこの話も含めて昨日する予定だったんだがな……」
「ん? う、ん……?」
何故だろう。また嫌な予感がしてきて玲喜はゼリゼの首にぎこちない動きで縋り付く。
今、正面からゼリゼの顔を見てはいけない気がした。
不穏な気配が再度流れ始めている。
「誰かさんのせいで今度いつ間違いが起きるか分からなくなったからな……玲喜?」
「いや……大丈夫だ! もう絶対間違いは起きない!」
「さっきあのバカ双子が来ただろう? 手にしてた酒瓶をみたか?」
自分の痴態を見られないように必死で二人の事は全くと言って良いほど見ていなかった。
玲喜の背中をダラダラと冷や汗が伝って行く。
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