ACT①ジャブ!

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ACT①ジャブ!

“閉まるドアにご注意下さい。お手荷物をお引きください” 促される抑揚のないアナウンス。 右手左手を封じられ一歩も動けない現状ではどうしようもない……注意は留意で聞き流す。 閉まるドアは俺の服をがっつりと挟み込んだまま、プシューッと閉じてしまった。 人身事故の影響もあってか、電車内は超満員。 負荷が掛かる度に前方からは音楽の音漏れ、右横からは濡れた傘、左横からは柔らかな髪と華奢な肩が振動に合わせて触れたり離れたり。 クチャクチャ。 クチャクチャ。 耳障りなガムを噛む音は、真後ろから絶えず離れず聴こえていた。これには我慢出来ずに一瞥する。 舌舐めずり? 嫌なものが視界の端に挟まった。 斜め背後にいるオヤジが明らかに不自然な動きをしている。 大方(おおかた)。左横にいるその女子高生に痴漢しようと目論んでいるのだろう……とは容易に勘付いたが。 ーーマジやめろっ! オヤジは勘違いをしていた。 女子高生はスカートで俺はスラックス。 スラックスの上に、スルスル〜とオヤジは熱を帯びた手を伸ばして来ていた。 ーーッ! そ、こは…ダ、ダメだッッ! 俺の太腿に這う指は、電車の揺れの緩急に合わせて時に激しく時にねっとり。上方目掛けて摩り始める。 絶望的な気持ち悪さが襲った。 「あ、んっ」 オヤジの巧みな手の動きに思わず声が出てしまい、瞬時に周囲の目線が刺さった。
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