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日光が柔らかく庭を照らしている。桜が満開を迎え、その樹の下で黄色い菜の花も咲き誇る。テントウムシが、花びらに止まっているのが窓越しに見えた。
「朝っぱらから何してるんだよおまえは。いやもう昼だな」
千尋はその声で振り返った。数歩先で、弟の直寿が不機嫌な顔で千尋を見ていた。「ったく、死んだ祖父ちゃんと祖母ちゃんが今のおまえ見たら嘆くだろうな」などとぶつぶつ言っている。千尋があくびをすると、直寿はさえぎるように冷蔵庫を開けた。
「おはよう。ナオは今から昼ご飯?」
「ちょっと小腹が空いただけ」
魚肉ソーセージをつかんだ直寿は、リビングを出て行こうとして思い出したように立ち止まった。
「おまえ今日仕事しろよ。冷蔵庫にろくなもんないからさ、飯は外で食ってきて」
じゃ、と魚肉ソーセージをひらひら振り、直寿は後ろ手にドアを閉めて行った。
途端に時計の秒針の音が聞こえるようになったリビングで、千尋は大きく伸びをした。
「仕事しますかあ」
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