櫻の下で咲く想い

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 祖母は、ほとんど目が見えない。私が生まれる前の年に祖父が亡くなり、私が生まれた翌年、目の異常に気づいて病院に行ったが手遅れだったそうだ。  でも祖母は視覚以外の四つの感覚で人生を謳歌(おうか)している。そしてほろ苦さを味わえるようになった二十歳(はたち)の私に、いまだに季節の楽しみ方を教えてくれる。  そんな祖母が心待ちにしている季節、それは桜が咲く春だ。 「桜、見えないのに?」と、幼いときに聞いたことがある。  祖母は微笑みながら「ここに今まで見てきた桜が入ってるんだよ」と、自分の頭をトントンと指でふれた。    暖かい風を肌に感じると、祖母の心が浮き立っているのが分かる。  たどたどしいウグイスの鳴き声が聞こえ始めると、庭の桜の様子を私に聞いてくる。 「つぼみはどんな状態?」 「色はどう?」  ホーホケキョと上手に鳴くウグイスの声が聞こえると、「そろそろ満開でしょう」と祖母はニコニコ嬉しそうに笑う。
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