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私は昔から病弱で、入退院を何度も繰り返していた。
これといって明確な病名は無く、唯々体調が悪くなったら入院して、良くなったら退院する、これの繰り返しだ。今回ので、入院した数はどれくらいになるのだろうか。きっと、身体中の指という指を駆使しても数え切れない。
この病室へ来る度に、自分が死んでしまうのではないかという強い錯覚に襲われてしまう。それが本当に辛くて、嫌いだった。
「大丈夫、大人しくしとけば治るって。
てか、まだ3月だっつーのに薄着で出掛けたお前が悪い」
自業自得だ反省しろ、と言わんばかりの視線をせいちゃんから受けて、わたしはグッと言葉に詰まった。確かにその通りなのだけど。せいちゃんの為だったのに、と口には出せないことを頭に浮かべる。
4月から高校二年生になるわたしと大学生になるせいちゃん。
せいちゃんは大学入学と同時に一人暮らしを始めるらしく、つい先日引っ越しを終えたばかりだった。だから彼の新しいお家に行ってみようと思って、乗り慣れない電車を使って会いに行った。
少しばかりお洒落をしようとして……たぶんこれがいけなかったんだろうな。わたしは今年の3月を甘くみていたようだ。せいちゃんに会いに行けたは良かったものの、次の日から高熱でもう大変であった。
そして即病院へ強制収容、今に至る。
「……ま、この様子じゃ今年はまだ桜も咲かねぇだろ」
「ほんと……?」
黙りこくったわたしから離れて、せいちゃんが窓辺に寄って行った。「ほら」と窓の向こうを指さす。病院の周りにはいくつか桜の木があるから、それを指しているのだろう。
「わたしも見たい」
モゾモゾとベッドから足を下ろして、せいちゃんの元へ行く。自分の目でもしっかりと確かめておきたかった。
あ、ほんと。まだ蕾のままだ。
良かったあ………。
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