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「ただし―――
家に帰れても、お花見の日以外は外出禁止だからね」
お母さんが厳しい顔を作り、わたしに釘を刺した。退院したら早速、再びせいちゃんの新しいマンションへ遊びに行こうと考えていたわたしは「うっ」と眉を下げる。
「そうだな、花見行きたいんだったら大人しくしてないと。また体調悪くなったら、今度こそ桜散っちまうぞ」
「ん、じゃあ早く治す!」
せいちゃんの言葉に諭されて、わたしはバッと寝る体勢になった。そんなわたしを見て、他のふたりがくすくす笑みを零す気配がした。
―――二、三日でちゃんと元気になる……!
布団の中で小さく拳を握って意気込んだ。今年も絶対、満開の桜が見れるようにと、祈りを込める。
毎年わたしの家族とせいちゃんの家族で訪れる、隣接市にある桜並木を思い浮かべた。行く日は、必ず一番満開に咲いた日。これはわたしの我儘で、皆んなには毎年協力してもらっているのである。
小さい頃からわたしは、常に「生」を感じられるものを探していた。「生きられる」という明確な保証が欲しかったから。唯の気休め程度でしかないのだろうけど、わたしは安心したかったのだ。
そして出会ったのが―――桜だった。
ほんの少しの雨や風で、一瞬にして散ってしまう桜。訪れるのが数日ズレただけで、満開は見れなくなる。この世で一番と言っても過言でない程、とても儚い花だろう。
それがすごく、わたしに似ていると思った。
免疫力がなくて、何をするにも人一倍の危険性が伴うわたしに……。
だからなのか、満開に咲き誇っている桜を見れば「大丈夫」だと思えるのだった。今年もこれを見られたなら、わたしは生きることができる。そんな不思議なパワーが桜の木には宿っている。
『明日死んじゃうかもしれない』
こうやって、わたしを取り巻く漠然とした恐怖も、満開の桜を見れば自然と薄れていくみたいな感覚になるのだ。
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