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中二へ上がる年は、入院してて満開日に見れなかった。
今でも鮮明に覚えている、あの時の絶望感を。
お花見の予定日だった日に、せめてもと思い、病室から桜の木を探した。しかし、もうそこの桜はほとんど散っていたのだ。見なきゃ良かった、と後悔して涙が止まらなかった。
満開日でなくても見れさえすれば良い、とかじゃない。
木の3分の1でも散ってしまえば、もう駄目なのだ。それだったら、見たくない。
あの年は、せいちゃんが高校生になって学校が離れちゃうから、前年までよりも強く願っていたのに……。
「………」
不意にベッドの際で、二つの手が絡まり合った。
わたしと……せいちゃんのもの。互いの存在を確かめるようにキュッと指先に力を入れれば、向こうからはわたしの幾倍もの力が返ってきた。
今年はせいちゃんが大学生になって一人暮らしを始める。
今までは毎日のようにくっ付いていたけど、それも出来なくなってしまう。だから絶対に満開の桜が見たかった。桜に、生きる勇気を貰いたかった。
もう辛い時悲しい時に、大好きな人の温もりを当たり前に感じることが出来なくなるから。その分、わたしは大丈夫だよって信じられる証明が欲しかった。
お母さんが「換気よ」と言って開け放った窓の隙間から、柔らかな風が吹き込んできた。布団からはみ出た鼻の頭を、さらさらと掠めていく。
白色のシーツを、暖かい黄色みたいなオレンジみたいな色に染めていく太陽の光。風と共に舞い込んできた春の花々の香り。目に映るもの、五感で感じる全てのものに、春の訪れを肌で実感する。
―――今年もちゃんと生きれるかな……。
満開に花開く桜。
その凛とした、麗しい立ち姿。
そして、美しさの中に潜む……生命の儚さ。
わたしもあなたみたいに、最後まで力強く生きていたい。
だからお願い―――
ささやかでいい。どうかわたしに、ほんの少しの温かな希望を与えて。
『早く、満開の花見せてね』
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