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「そこ、間違っているよ」
電車で三十分程度、二回乗り換えしてから徒歩でニ十分にある大規模な市立公園に来ていた。通っている塾からは三分くらいなため、昼休みの一時間三十分はここで過ごすことにしてた。まだ冷えるため手袋は欠かせないがたまたま忘れてしまったのを、ポケットを探って知った。
ジョギング走路にアーチを作る様に植えられた桜の木が芽吹き始めていた。そういえば朝のニュースで開花はもうすぐで、満開宣言は4月4日になると言っていたのを思い出す。昔家族で花見をしたのを思い出しそうになって、慌てて頭を振る。
「ふぅ」
買ってきたホットコーヒーを一口飲んでから息を吐く。もう白くは見えなかった。
「ここはどうですか?」
「ん……うん、合ってる」
青色をベースに白い花のような絵柄のあるワンピースでピンク色のセーターを羽織っている女の子が「よし」と嬉しくなさそうに喜んだ。
三日前から塾の春期講習が始まった。難関校合格を何人も輩出しているからと母親がママ友に教えてもらい、無理して僕を通わせてくれている。僕は別に行かなくてもいいと言ったが、「とりあえず行ってきなさい。合う合わない含めて勉強だと思ってきな」と申込後に言われた。
「あ、そこは違う」
「え」
女の子が二、三ページ後ろに戻って凝視し、その後「あ」と声を漏らしてから元のページに戻る。
「そこも、そこも」
「…………」
「全然だめじゃん」
それで一時間三十分の休憩時間は公園で昼食を取りながら勉強をしていた。そこで「あの」と声をかけられたのが始まりだった。
「なんでそこでその公式使うの? ここはよく出る引っ掛けだから注意しないと問題作成者にバカにされるよ」
「……教えて、ください」
声が震えていた。今にも泣きそうな潤んだ瞳で見上げられるが、僕は容赦しない。
「だめ。回答を見て理解するか、解説で納得して。じゃないと記憶に残らないから」
「……はい」
教える気がまったくない僕に対して、怒るでもなくただ従順に返事をするだけだった。僕がいなくてもいいような状態なのになぜ女の子は僕を招き入れるのだろうか。
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