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正義感
中高層ビルが乱立する街中にある12階建てのマンション、その屋上。立ち入り禁止の場所にも関わらず、一人の男が春の強風に茶髪をなびかせ、フェンスにもたれ掛かっている。
長身で細マッチョの身体を皴一つない黒の正装で覆う彼は、遠目からはフォーマルスーツのモデルの様に凛々しく見える。しかし、近くから見るその姿に覇気は感じられない。
「ああ、お昼なんですねぇ、お腹空きました」
大通りでは昼食に向かう会社員たちで賑わいだしている。しかし、金欠の彼はその流れに乗ることが出来ない。
「早く職に就かなければ…」
失業中の彼はその賑やかさが耐え切れず、つい人通りの無い仲通りの方に目を向けてしまう。すると、
「おや?」
そこに気になる光景がある。
ビルの狭間の小さな駐車場のワゴン車の陰で、若い女性が3人の男に詰め寄られている。
「これはいけませんねぇ、大の男が若い娘に寄って集って…」
そんな光景を目にしても至って彼の表情は穏やか、口調も丁寧である。しかし、その眼だけは鋭く光っているのである。
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