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——やだ、悲しくて泣ける。一気に白髪が増えそう。嫌、病む。もう砂になって消えたい。つーか、誰か俺を殺して。
「そうなのね。安心した」
「はは、お前も目覚めたか」
「………………」
——本当にお願いします。倫理観……帰ってきて仕事してください。普通の常識人だった両親を返して? 今なら土下座でも何でもします。俺に普通を返してください。
せっかく用意してもらった食事を粗末にするのも気が引けて、食欲は失せていたが律希は頑張って食べた。
外から扉を叩く音が煩い。
駄犬共は大人しく外に居ればいい。
口にしてみた飯は最高に美味しくて笑みが溢れた。
ガンガンガンガンッ!
無視。
——ご飯って美味しい。最高。一人最高。アイツらが居ないんなら生きててもいい。
律希のスルースキルは大幅に向上した。
その日、不思議な夢を見た。
漁港にいる自分が網にかかっていた妙な生き物たちを逃す夢だ。
『もう行っても大丈夫だよ』
『——、——』
『ん? なに?』
良くわからなかったので、律希は妙な生き物たちに向けて曖昧に微笑んで見せた。
『————、————』
『???』
何度聞いても分からない。
でも綺麗な音を奏でる言葉は絵本の中で見た物語を再現しているようで、ワクワクした。
『んーーー? 良く分からないけど、いいよ? 約束? だよ?』
ありがとうとお礼を言ってたり、今度遊ぼうね、とか言っているのかも知れない。
自己解釈して海に帰っていく生き物たちに手を振った。
その後、海で溺れて三日間も死の淵を彷徨っていたのもあって、今の今まで忘れていた。
夢は、実在する本当の記憶だ。
どうして今になって思い出したんだろう。
二人が人外なのが分かって、あの頃の不思議な体験を重ねてしまったのかもしれない。
段々意識が浮上していく。
目を覚ますと、金縛りに遭っているかのように体がピクリとも動かなかった。
胸にも腰にも足にも、何かが置かれて巻き付くように戒められている。
「だからっ、何でお前らいるんだよっ!?」
セミダブルしかないベッドの上で両側から抱きしめられると窮屈過ぎる。
金縛りの正体は二人だった。
——もう本当に勘弁して欲しい。
痛む頭を両手で抱えていると、ふと今し方まで見ていた夢を思い出した。
「ア……? アル……ǮȽɋȾȶȿǮ・ȼǮȽȢ……、ȽɋȾȶȿɀɋɇ・ȼǮȽȢ(アルミナ・ケイル……、ルミナス・ケイル)」
妙な生き物たちが律希に言った言葉だ。
確か、こんな発音だった。
まるでお伽話の呪文のようで、幼い律希は分からなくても心が躍っていたから覚えていた。
「!!」
その瞬間、誉と秀が飛び起きて律希をガン見する。
「え、なに? どうしたんだお前ら?」
数分間瞬きもせずに二人から見つめられた。
——人外て瞬きしなくて平気なの……? 目、乾燥しない? ドライアイになるよ? 足は乾燥するからってすぐ人間に戻してたのに?
そんな事を考えていると、破顔した二人に両頬にそれぞれ口付けを落とされる。
「は? マジで何!?」
思わず手で拭き取った。
「思い出してくれてありがとう律希! 俺がアルミナ、秀がルミナスだよ」
「え?」
真名には言霊が宿る。
それは神聖な誓いの場でしか本来は紡いではいけないしきたりだった。
昔、助けてくれた律希に一目惚れした二人が求愛の証に名を口にした。
それは正確な発音で、相手側からも呼ばれて初めて真の効力を発揮する。
「「律希、——ȶ ɏȶȽȽ ȽɀɍȢ ʯɀɋ ȥɀɆȢɍȢɆ」」
「? ああ……、うん」
初めて聞く言葉に、何が何だか良く分からずに頷く。
また何か間違えてしまったような妙な焦燥感に襲われたが、誉と秀が心底幸せそうに微笑むから、律希は反応に困って否定の言葉は口にしなかった。
——良く分からんけど、もういいや……。
気恥ずかしさが勝り、自嘲めいた笑みを浮かべる。
「死にかけて、そのまま忘れてた……ごめん……っ、て、うわ!!!」
ベッドの下に引き摺り落とされて、剥ぎ取ったベッドシーツを被せられる。
三人で中に籠った。
朝陽が透けて見えて、どことなく神秘的に見える。
唐突に左手の薬指が熱くなって、律希は「熱っ!!!」と言いながら飛び跳ねた。
「何これ……」
熱さが引いた指には見た事もない記号の様な模様が出来ていた。しかも発光している。
「結婚指輪は必要でしょ! 発信機付きで律希の居場所すぐわかるし、音声も拾えるんだよね、超便利」
——はい!?
何か言い返す前にまたシーツの中に引き込まれる。
「「ȶ ɄɆɀȾȶɇȢ ʯɀɋ ȢɉȢɆȿǮȽ ȽɀɍȢ」」
唇の両端に降ってきた口付けは、結婚式場で交わす誓いの口付けみたいだった。
【了】
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ȶ ɏȶȽȽ ȽɀɍȢ ʯɀɋ ȥɀɆȢɍȢɆ
貴方を愛し続けます
ȶ ɄɆɀȾȶɇȢ ʯɀɋ ȢɉȢɆȿǮȽ ȽɀɍȢ
永遠の愛を誓います
人魚語を作りたくて適当に作った暗号表で暗号化させたものです。現存する言語ではありませんm(_ _)m
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